だきしめたい。 3

・・・・・from「だきしめたい。」

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 それは、今日の査問会の最後の十分程のやりとりだった。

『しかし、これはあなた個人の問題という訳でもないとも言えますね』
『……どういうことでしょうか』
『あなたの上官──堂上二正他のあなたへの指導に問題があったのではないかということです』
『ま…… 待ってください。今回問題にされている件は、堂上きょ……二正は何も関係ないと思いますが。私が砂川一士と共謀して図書の隠蔽を計ったかどうかに関しては、かねてから申し上げている通り、私は荷物の中身を全く知らないで運搬を手伝っただけですし、ましてやそのことについて堂上二正や小牧二正に何か指示を受けたということは決してありません』
『あなたが図書隠蔽に関与したかどうかは、砂川一士が休職中で証言の再確認ができない以上、現時点でこれ以上の追及は意味がありませんからここでは触れません。しかし、あなたが砂川一士と同様に極めて強い原則派的な思想を持っているとすれば、図書隠蔽への関与の有無はさておき、今後同様の問題を起こす恐れがあるのではないか、ということを私たちは危惧しています』
『ですから、私は特に派閥のことは考えたことがありませんし、』
『意識はなくとも、殊に原則派寄りの特殊部隊の中でそのような思想的教育……教育をされていないとあなたが言うのなら、誘導、をされている可能性は大いにあります』
『そのようなことはないと思います。上官からは日々任務に必要な知識やスキルを教えて頂いていますが、思想的な指導を受けた覚えは全くありません』
『以前も触れましたが、あなたが起こした見計らい事件、これを追認した玄田三監、堂上、小牧両二正が現在のあなたの上官です。あなたは教育期間中から特殊部隊への配属が目されていた。その上でのことであれば、やはりあなたを原則派へ誘導するための措置であったと考える事も不自然ではありません』
『そんな! あの件に関しては、堂上教官たちに当時こってり絞られました! 私も反省しましたし!』
『しかし、追認した事は事実です。本来ならば、彼らも規則違反によって査問会へ召集されても当然でした。もちろんあなたもです。査問会が開かれなかったのはたまたま前例があったからですが、今回の砂川一士の件のような極めて原則派的な思想に寄る問題が発生してしまった今、同様の問題の再発を防ぐためにはそのような思想の芽を育む土壌についてもあらためて取り上げる必要があるでしょう』
『……堂上二正、たちを、査問会に召集するということですか』
『もちろんそれも視野に含めています』
『堂上教官は関係ありません! あの見計らいの件については、私が不勉強で考えなしに勝手に暴走したことで、教官たちはなにも!』
『それでも彼らがあなたの見計らいを追認したのは事実です。それが重大な規則違反であることを、あなたもよくわかっていますね』
『それは……ですが、それはあたしが……っ』
『ではあなたは、自分が原則派的な思想に基づいて独断で引き起こした件であると認めますか?』
『……それは……配属もされる前の入隊間もない頃のことですし、思想的なものはまったく意識していませんでした』
『それでは、現在はどうですか? もしあなたの言うように、特殊部隊の上官から原則派的な思想教育がなかったとすれば、やはりあなたにそもそも原則派的な資質があるのだということですね?』
『……自分では、わかりません。周りのみなさんのご判断にお任せするしかありません』
『あなたがそう言うのなら申し上げましょう。私たちはあなたについて非常に原則派的な思想の持ち主であると判断しています。そしてそれをあなたが意識していないというのであれば、やはり特殊部隊という場所が、あなたが自身についてそれと意識せずに済ませてしまうほどに原則派に偏向しているということであり、あなたの上官たちの指導にあなたの原則派的な資質を助長する問題点があったと考えざるを得ません』
『そんな指導受けてません! 教官たちは全然関係ないです! あたしがバカだから勝手に、』
『では少なくとも、あなた自身が原則派の思想を持っていると認めますか?』
『そうではありません』
『そうであれば、私たちはあなたへの査問は一時中断し、あなたの上官……まずは直属の上官である堂上二正の査問会への召集を準備しましょう』
『それは……っ!』
『失礼します。十五時になりましたので、笠原一士を業務に戻らせて頂きます』

 そうして査問会の会場である会議室の扉を閉めるなり、胸ポケットのUSBレコーダーを小牧に押し付けると郁は庁舎の外へと駆け出して行ったのだった。


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