DRAGON GIRL 2・・・・・from「20XX12XX」 |
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* 「いくら年賀状のネタに困ってたからって、そんな夢見るか?」 隣に座る手塚に本気で呆れたような声で言われ、郁は不貞腐れた顔で鯖味噌定食をつついた。目線だけを皿から上げれば、斜向かいでは案の定小牧が上戸の世界に片足突っ込んでいるし、正面では堂上が苦笑を抑えるために口を手で覆い、しかし、結局失敗して指の隙間から零れさせていた。 「もー、そんなに笑わらなくてもいいじゃないですか。大体そんだけ笑うってことは、元ネタ通じてるんですよね?」 郁が口を尖らせると、堂上が苦笑をごまかすために(もう無駄だっつーの! と郁は内心突っ込んだ)お茶を一口飲んでから口を開いた。 「まあ、俺たちがガキの頃にも何度も再放送してたマンガだしな。だからもちろん知ってはいるし、俺だって結構好きだったが、夢にまで見たことはないぞ」 お前、どんだけ好きなんだ。小学生男子か? そう言って堂上は、結局抑える努力を放棄した苦笑いを浮かべた。 悪かったですね、その小学生男子があんたの彼女ですよーだ。 絶対口にできない悪態を、郁はこれまた心の中でだけ言い返した。 「全くもー、うるさいったらないのよ。『ねー柴崎、辰っていったら龍よね、ドラゴンよね、ドラゴンって言ったら神龍よね、ああでも西洋の二足歩行トカゲドラゴンも捨て難いよね!?』とかなんとか、ハガキに向かってずーっとうんうん唸り続けてるんだもの」 こちらは手塚とは反対側の隣に座っている柴崎である。 郁は昨晩、いよいよ迫ってきた年賀状の元旦配達合わせの投函締め切りに向けて、最近いろいろ……そう、いろいろと! 落ち着かなかったためにいまだ手を付けられずにいた年賀状書きに、ようやく取り掛かったのだった。 が、コタツに入っていざハガキを目の前にして、そっか来年は辰年かあ、じゃあ辰の絵でも入れようかな、なんて思ったのがドツボの始まりだった。 辰ねえ……ああでも、辰ってどんなだ? 神龍しか思い出せないんだけど! でも親戚宛ての年賀状で神龍を描く訳にもいかないし、だいたいウサギやイヌならともかく、辰って! 十二支中唯一の実在しないイキモノ! 龍にしたって竜にしたって、そんな空想の産物、とっさに描ける訳ないじゃん! そうやって一人で唸っていたら、呆れ顔の柴崎に「ノーパソ貸してやるから、画像検索でもなんでも好きなだけしなさいな」とため息交じりに言われたので、郁はありがたく拝借して龍やら竜やらの画像をあれこれ見比べ始めたのだが、結局のところ、どうするか決めかねて一枚も描けずに就寝してしまった。その果てに見た夢がアレである。 いくら、辰、龍、竜……と唱えながら床に入ったとはいえ、我ながら変な夢を見たものだ、とおかしかったので(あまりに有名なマンガのネタだから、柴崎はともかく男子連中には絶対に通じるという確信もあったし)班のみんなにもお披露目したのだが、まさかこんな笑われ方をするとは思っていなかった。失敗した、とすぐさま後悔したが文字通り後の祭りである。 それはさておき。 「もうそんなに日もないのに……しまったなあ」 デッドラインまでの日数を数えて思わずため息をついてしまった郁に、手塚が不思議そうな顔をした。 「今時、年始の挨拶もメールって奴のが多いだろ。律儀に年賀状出すのも珍しいんじゃないか」 「それ、よく言われる」 手塚の言葉に郁は軽く頬をふくらませ、それからもう一つため息をついた。 「確かに、友達ならメールで全然構わないんだけど、親戚とか学校の先生とかには年賀状じゃないと、って思っちゃうんだよね」 「ああ、そうだな。年配の人だとメールじゃ文字が小さくて読みづらいとかあるだろうし」 「いや、そういうんじゃなくてさ。あ、ないことないけど、そうじゃなくて、」 「目上の人に対する昔ながらの礼儀とか、笠原さんはすごく大事にしてるよね。入隊当時、ご実家にハガキ書いてたの、今時珍しいなあってびっくりしたもの」 手塚と郁の微妙に噛み合わないやり取りに口を挟んだのは、ようやく上戸の世界から帰ってきたらしい小牧だった。こんなところでいきなり懐かしい、というか、お恥ずかしい話を、と郁はいたたまれなさに肩を縮ませる。 入隊当時のハガキといえば、書いたはいいが出すに出せない内容になってしまって、挙句、その頃はまさか直属の上官になるなど夢にも思っていなかった堂上と小牧に押し付けたのだった。そういえばあのハガキを彼らはその後どうしたのだろう、郁の言った通り処分してくれたのだろうか。今思えば上官に対してとんだ無茶振りである。 「親がそういうのきっちりやる人だったからでしょうね。そういうもんだと思って育ったので、今さらやめられないというか」 年末になるとハガキの束を積み上げて一枚一枚手書きしていた母の隣で、幼かった郁も兄達とともに友達や先生への年賀状を一生懸命書いたものである。それはその年一年を楽しく過ごせた縁に感謝し、かつ、新しい年へその縁をつなぐための大切な行事だった。 だから郁としては、本当ならば今まさにお世話になっている隊の人々にも年賀状を出したい気持ちでいっぱいなのだが、下手をすれば大晦日も元旦も当たり前のように顔を合わせる相手、しかも同じ寮内にいる人間にわざわざ年賀状を出すと言うのもおかしな話である。そもそも年賀状というのは直接年始の挨拶に行けない代わりの書状な訳で、会ってしまうから年賀状が出せない、と文句を言うのは本末転倒だ。 ……とわかっていても、やっぱり年賀状を優先に考えてしまうのは、これはもう習い性としか言いようがないだろう。 「で、笠原さん、神龍には何をお願いしたの?」 「えっ」 まさかここで再び夢の話を蒸し返されるとは思っていなかった郁は素っ頓狂な声を上げてしまった。予想外の展開に目を丸くした郁に、蒸し返した小牧がにこにこしながら話を続ける。 「だって、そんなものすごい大冒険してようやく神龍を呼び出せたんでしょ。よっぽど大事な願い事があったんじゃないの?」 「と言われましても、所詮は夢の話ですし……」 残念ながら、小牧の期待に応えられるようなオチはない。郁の視線は困ったように宙をさ迷った。 「願い事を言うところで起きちゃったんですよね。夢の中の自分が何をお願いしようとしてたのかまではわかんないですよ」 せっかくだから、なんかでっかい願い事を叶えてもらいたいですよね、と苦笑した郁に、左右からそれぞれ 「どうせ、『うまいもん腹いっぱい食わせろ』とかだろ、お前のことだから」 「あるいは『ボンキュッボンになりますように』とかよ、きっと。今だって十分モデル体型のくせに憎いわぁ」 と勝手な予測が飛んできた。 「ちょっとあんたら、なんだそれは! 勝手に人の願い事捏造すんな!」 左右からのあまりといえばあんまりな物言いに郁は素直に噛み付くが、 「当たらずも遠からずだろ」 「なによ、世界平和でも願うつもりだったの? そんな訳ないでしょ」 とこれまた左右ともに失礼な返事が返ってきて、郁は「なんだと!?」と声をあげた。 「どうせ分不相応にでっかく願うんなら、『検閲がなくなりますように』くらいお願いするわよ!」 その言葉に小牧が「図書隊員らしい願い事だね」と笑ったが、その隣の堂上はやはり微妙な苦笑を浮かべていた。 |
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