Gift 2-1・・・・・from「Gift」 |
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2 図書館の入口そばにそびえる常緑樹は、樅でもないのにクリスマスツリーよろしく綺麗に飾り立ててあった。それが視界に入るということはこの短い二人きりの散歩……と言うのもおこがましいが……の終わりが近いことを意味する。 あー、やっぱりあっという間。 そんなことは最初からわかっていたことだが、それでも名残惜しい気持ちに嘘はつけなくて、郁の足は少しだけ重くなる。しかしさすがに休日だからか、堂上の歩みもさほど早くはなく、普段の訓練速度が嘘のようなゆったりしたペースで二人並んで歩いていた。 ──いつもの速さで歩いてたら、もうとっくに着いてるどころか返却まで済んでそうだよね。 しかし今は違う、という現実に郁の頬が思わず緩む。 それでも当然、ツリーもどきは徐々に近づいて来て、郁はせめてあとわずかの時間だけでも楽しく話せないかと頭の中でなけなしの話題を検索するが、堂上と共通の話題なんて仕事がらみのことしか思い付かない。何もこんなときに仕事の話なんかしたくないし、次は何の本を借りるかとか聞いてみる? ああでも「なんでお前にそんなこと言う必要があるんだ」とか真顔で返されそうだし、そしたら何も言い返せない上にダメージでかいなあ……とか後ろ向きなシミュレーションしかできなくて、郁はこっそりとため息をついた。 と、それまでほとんど話さなかった堂上が不意に口を開いた。 「お前、サンタクロースっていくつまで信じてた?」 その質問がおよそ堂上の口から出たものとは思えなくて、郁は思わずぽかんとしてしまった。 「……なんだ、その顔は」 よほど間抜けな顔をしていたのだろう、呆れたような顔で堂上に見返されて、郁は慌てて手を振った。 「いえあの、まさか堂上教官からそんなファンシーな質問が出て来るとは思わなくて」 慌てた勢いでつい思ったままを言ってしまうと、堂上が不機嫌そうに眉をしかめた。 「ファンシー……」 オウム返しに言われたその言葉と表情があまりにも噛み合わなくて、郁は思わず噴き出してしまった。しかしそれを見た堂上の顔はますます不機嫌さを増す。 「人がせっかくクリスマスイブだからってそれらしい話題を振ってやったのに、笑い物にするか」 「あああ、すみません、からかってるわけじゃなくてっ」 不意に足を早めた堂上の袖をあわてて引っ張って郁は弁解した。ああもう、だから何やってんのあたし! 「堂上教官ってクリスマスとかあんまり好きじゃないのかなって思ってたから! 昨日もあたしがお菓子配ってたときちょっと不機嫌そうだったし」 昨日──クリスマスイブ・イブ、と最近では言うらしいその日に、郁が事務室据え置きの菓子鉢にクリスマス仕様に個別包装されたお菓子を盛り入れた。郁としては「まあせっかくクリスマスシーズンだし」くらいの気持ちだったのだが、男所帯ではそもそもそういう発想もなかったらしく、鉢に入れるそばから「お、クリスマスか」「やっぱ女子がいるとこういう気遣いがあっていいなあ」などと言いながらつまんでいくので、郁の方もイベント好きな女子の血が騒ぎ、「よし! じゃあ笠原サンタが頑張るみなさんにお菓子を配りますよー」と言って在席していた隊員たちにお菓子を配って歩いたのだ。 「クリスマスイブは明日だろう」とか「袋じゃなくて鉢からってどこがサンタだ」とか隊員たちからはさんざん突っ込まれたが、それでもお菓子を受け取る彼らの表情はいつもより少し柔らかく見えて、ああ、やっぱりクリスマスって、サンタさんっていいな、なんて、配る郁の方もなんだかうれしくなってしまった。──ただ一人、堂上だけは仏頂面だったが。 「あの、堂上教官も、よかったらどうぞ」 もしかしたら「職場で何バカなことやってるんだ」とか怒られたりするのかしら、と郁が若干びくびくしながらお菓子を差し出すと、堂上は不機嫌そうな表情は変えず、それでも「ん」と一音だけ発してそれを受け取った。その隣で小牧が、 「せっかくのサンタさんのプレゼントなんだから、もっとうれしそうに受け取りなよ」 とくすくす笑いながら言うのも聞こえない振りで、小袋をさっさと開けてお菓子をたいらげてしまった堂上は、郁にはどうしたって楽しそうには見えず、 ──クリスマスとか、あんまり好きじゃないのかな。 郁がそう思うのも仕方ないような不機嫌っぷりだったのだ。 去年もおととしもクリスマスは仕事だったし、郁も今年のように事務室でとりたててクリスマスっぽいことはしなかったし……何より堂上を「そういう目」で見ていた訳ではなかったから気付かなかったのだろうか。 「別に、好きとか嫌いとか考えたこともないけどな。ただの年中行事の一つだ」 歩きながらそう言う堂上の口ぶりは少しばかりつっけんどんで、ああやっぱり、ホントはあんまり好きじゃないのかな、と郁は思う。それなのにわざわざクリスマスネタを振ってくれたということは、昨日見せた郁のクリスマス好きっぷりを気遣ってくれたのだろうか。だとしたら、せっかくの会話のネタに乗らない手はない。というか、ネタがなくて困っていたのだから、むしろ大歓迎だ。 「ええと、サンタさんですよね。あたし、たぶん最初から、いわゆるサンタさんはいないって知ってましたね。うちのサンタさんは最初から父でした」 「そうなのか?」 堂上が意外だ、という目を郁に向ける。自分のキャラを思えばおそらく小学生くらいまで信じていたに違いないと思われていそうだ。その自覚もあって、郁は苦笑する。 「親は信じさせたかったみたいですけどね、なんせ上に情緒のかけらもない兄が三人もいますから。あっさりネタバレです。それに、子供も四人目ともなると親も力尽きるみたいで、実のところはそんなに必死に隠そうとはしてなかった気がするなあ」 それでも、子供の頃のクリスマスイブの夜はとても楽しくて、うきうきした。料理上手な母が腕によりをかけて作るごちそうや、この日だけは夜更かしを許されて、食後に家族で楽しんだボードゲーム。そして、翌朝の枕元に両親が置いてくれるプレゼントを楽しみにして眠る暖かいベッド。 あたし、ちゃんとかわいがってもらってたよね。 つい先月、郁の職場に乗り込んできた母に叩きつけた言葉たちが思い返されて、郁の胸がぎゅうっと痛む。おかあさん、ごめんなさい。あたし、おかあさんに「どうしてわかってくれないの」ってばっかり思っていたけど、あたしも、おかあさんの気持ち、わかろうとしていなかったね。 あたし、ちゃんとかわいがられてたから……愛されてたから、こうして子供のころをあたたかく思い返せるんだ。クリスマスが大好きなんだ。 ──お前はちゃんと愛されてるよ そう、本当に、堂上教官の言うとおりだったんだ。 |
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