Gift 2-2

・・・・・from「Gift」

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「どうした?」
 つい自分の家のことに思いをはせていた郁は、堂上の声にやっと我に返った。
「あ、すいません。ちょっと子供の頃のこと思い出してて。……サンタさんはいないって知ってましたけど、でも、クリスマスは楽しかったし、だから今でもクリスマス大好きだし、サンタさん信じてますよ」
 郁の言葉に堂上が怪訝な顔をした。サンタはいないと知っているが、サンタを信じている。そんな明らかに矛盾したことを言われれば、そりゃ誰だって困惑するだろう。郁は苦笑しながら言葉を続けた。
「信じてる、とは違うかもしれないけど……自分のことを見守ってくれていて、自分のために贈り物を届けてくれる、そんな人がいるって、きっとすごく幸せなことじゃないですか。その象徴がサンタさんなんだと思うんですよね。だから、サンタさんを信じてる子供たちの気持ちは大事にしてあげたいなって思うんです。それに、うちはあっさりばれちゃいましたけど、サンタさんのことを子供に信じさせてあげたくて頑張ってる親御さんって、すごくいいなあと思うんです。子供達の夢を守ってあげたいんだなあって。……それって、ちょっとおこがましいかもしれませんけど、図書隊の仕事にもつながってる気がしません? 本を読んで夢を見ることも、本を書いて夢を見せることも、どっちも守っていけたらいいな、なんて」
 ちょっとこじつけすぎかな、と思いながら堂上の方を窺うと、その顔はびっくりするほど優しい笑みを浮かべていて、てっきりまた「子供みたいなことを」と苦い顔をされるのかと思っていた郁はどきっとした。
 ちょっと待って、その顔、反則!
 子供の頃のあたたかい記憶から一気に現実の……好きな人と並んで歩いている、という場面に引き戻されて、郁の顔は一気に熱くなった。あーもう、クリスマスイブに好きでもない女にそんな顔見せるな! いや見たいけど! でも!
 勘違いしちゃうじゃないですかっ!
 そんな郁の思いも知らず、堂上はその手をぽんと郁の頭に乗せた。
「いいんじゃないか、間違ってないと思うぞ」
 ぽん、ぽん、と二、三度頭の上で弾んで、また元の位置に戻って行く手を名残惜しく見送りながら、郁は「はい」と小さく返事をして、それから思い出した。
「あー、それで、堂上教官は? いくつまで信じてました? サンタさん」
 その郁の問いに、柔らかかった堂上の笑みが見る間に苦くなる。あ、やっぱり、クリスマスネタはあんまり好きじゃないのかな。そう思ってひるんだ郁から目を背けた堂上が眉をしかめた。
「俺も物心ついたときにはサンタが親だって気付いてたが……むしろ、親の代わりに妹へのアリバイ工作で必死だったことしか覚えてないな」
「アリバイ?」
 クリスマスとは縁のなさそうな単語に郁は目を丸くした。堂上ががりがりと頭をかく。
「アリバイっつーか……親がせめて妹にはサンタを信じさせてやろうとしてたんだが、この妹がとんだ跳ねっ返りでな、『サンタは本当はお父さんだと思う!』とか言ってイブの昼間に一生懸命家探ししやがるんだよ。プレゼントがどこかに隠してあるはずだってんで。うちは両親共働きだったから、それを阻止するのが俺しかいなくてなあ。毎年ひどい目にあった」
 堂上の妹など当然会ったこともないが、小さい篤少年が小さい妹を追いかけて家の中を右往左往する様を勝手に想像して、郁はまたぷぷぷと噴き出してしまった。
「か、かわいいなあ。堂上教官、優しいお兄ちゃんだったんですね。うちのバカ兄貴たちとは大違い。うちもそういうお兄ちゃんだったらよかったのに」
 くすくすと笑いながら言うと、堂上の顔がますます苦くなった。
「こんな物騒な妹いらん。うちのバカ妹だけで手いっぱいだ」
「うわー、それどっちにも失礼」
 ……でも、あたしも、教官の妹じゃなくてよかったです。
 まさかそんなことは言えないから、郁はぷうとふくれてみせて、しかし結局はくすくす笑ってしまって堂上に「笑いすぎだ」とゲンコツを落とされた。いくら上官だからってクリスマスイブにゲンコツってどうなのよ、とは思ったが、しかしその力が普段からは比べ物にならないもので……擬音にすればせいぜい「コツン」程度だったから、かえって普段以上の威力だったかもしれない……郁の心臓にとっては。
 そうして跳ね上がった郁の心拍数が元に戻らないうちに、二人はクリスマスツリーもどきを横目に図書館の入口をくぐった。
 散歩はここでおしまい。
 甘い夢も、ここでおしまい。
 郁は軽く頭を振って気持ちを切り替えてから、本をよこせとばかりに堂上に手を差し出した。
「教官の分もまとめて返しておきますよ。返却カウンターに二人で並ぶことないですもん」
 郁と堂上が二人でカウンターに並ぼうものなら、それが勤務日ならいざしらず、今日は二人とも公休で私服であげくクリスマスイブだ、事実とは違う余計な噂話が駆け抜ける恐れがある(郁としては自分がそんな噂話の対象になるとは思えないのだが、それでも女子の噂話パワーは何をネタにするかわからないので用心に 越したことはない)。そして、堂上がその類の噂話を嫌うであろうこともわかっている。だからこその申し出なのだが、きっとその意図は堂上にも伝わっているに違いない。その証拠に、堂上は「悪いな」と言ってあっさり本を差し出した。ハードカバーが一冊と新書サイズが二冊。小説と実用書だろうか。返却前にタイトルをチェックしとこう、と郁はひそかに心にメモをする。
「お預かりします。それじゃここで」
 本を抱えた郁はぺこりとお辞儀をして堂上に背を向け、返却カウンターに向かって歩きだした。
 これが、もしも本当につきあってるとかだったら、このあとも一緒に本を見て回ったりするのかもしれないが、ただの上官と部下である堂上と自分とではそんなことはありえない。だから、堂上と一緒にいるのは今日はこれでおしまいだ。
 だって、たまたま道中が同じになっただけだもの。
「……噂になれるような仲ならいいわよねー」
 ふと口をついて出た本音に気付いて郁はあわてて口をおさえた。
 き、聞かれてないよね誰にもっ。
 むしろその顔の赤さの方が余程か周りの注目を集めるだろうことには思い至らないまま、郁は返却カウンターへと小走りに向かった。



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