Gift 3-1

・・・・・from「Gift」

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 屋外の樹でさえクリスマス仕様なのだから、館内は言わずもがなのクリスマス一色だ。壁や低い書架の上、カウンターなど、至るところにクリスマスの飾り付けがなされている。
 別にキリスト教国でもないのにやり過ぎよ、とは毎年飾り付けに駆り出されては仕事を増やされて愚痴る業務部の柴崎の言だが、日本におけるクリスマスはそれこそ堂上の言葉ではないが既に一般的な年中行事と化してしまっているし、そしてなにより、サンタクロースのおかげで他のイベントに比べて断トツに子供向けの色を帯びたものだから、子供たちの夢をふくらますためにもとことん楽しくやった方がいい、と郁は思っている。
 ……なーんて、自分がまだまだ子供だから思うのかなあ。
 と首を傾げつつも、ま、楽しければいいじゃん、と日本人らしい思考停止をしてふと閲覧室の方に目をやると、落ち着いた色彩の図書館にはそぐわない、しかし今日ばかりはむしろこうでなくちゃ、という全身紅白の人物が子供達に囲まれて立っていた。
 サンタクロースだ。
 イブとクリスマス、つまり今日と明日はおはなし室で子供向けのクリスマスイベントが何回か催される。館員によるクリスマスの絵本の読み聞かせのあとにサンタクロースがお菓子を配るのだが、きっとその準備のためにおはなし室へ向かおうとしていたところを子供達につかまってしまったのだろう。肩に担いだ大きな袋を下から引っ張られては、ぶら下がる子供達を振り回さないように、しかしなんとか引き離そうとしているのが傍目には滑稽だった。サンタの方は子供に怪我をさせないようにひどく苦労しているのだろうが。
 このサンタも男性館員の仮装である。毎年、割と恰幅のいい館員が選ばれるのだが──よりサンタらしく、ということなのだが、選ばれた館員はみな一様に微妙な顔になるらしい──今年のサンタは例年に比べるとやや細身のようだ。
 今年は誰がやってるんだろ?
 郁は似た背格好の館員を何人か頭に思い浮かべながら返却カウンターの列に並んだ。
「あ、柴崎」
 しばらく並んでようやくたどり着いたカウンターは柴崎の担当だった。郁は堂上から預かった分と合わせた本の山を柴崎に差し出す。
「お疲れ様。ねえ、今年のサンタって誰がやってるの?」
 一般利用者の手前、やや小声で尋ねる郁に、柴崎は対外向け営業スマイルを崩さないまま手にしたスキャナで返却図書のバーコードを手早くなぞりつつ、同じく小声で答える。
「今年は館員じゃなくて学生ボランティアよ。近所の大学のボランティアサークルかなんからしいけど。ただでさえ忙しいのにサンタなんかで人が持ってかれるのは困りものだったから助かるわ。……それよりさあ、笠原」
 それまで本と端末しか見ていなかった柴崎が、不意に郁を見上げた。
「なんであんたが堂上教官の返却図書なんか持ってくるのよ?」
 間。
「うわ……っ!」
 絶叫しそうだったところをなんとかぎりぎり自分で自分の口を押さえて、郁は声を飲み込んだ。
 そうだ、返却チェック!
 貸し出し時と同じように返却時も書籍に貼られたバーコードをスキャンするのは、システム上の貸し出し記録を返却済に更新するために必要な処理だが、その際に端末に利用者情報が表示されるのを郁はすっかり忘れていた。
 郁の差し出した本の山から堂上の名前が出て来たら、そりゃあ柴崎だって驚くだろう。
「え、えと、寮を出るときたまたま一緒になって、教官も返却図書持ってたから、ついでだしってあたしが預かったんだけど」
 二人で並ぶと館員からは目立つし、と思ってそうしたのだが、
「そんなとこだろうと思ったけどね。これ、ある意味一緒に返しに来るより意味深よ?」
 担当があたしでよかったわね? にやりと笑った柴崎は、次の瞬間にはまた見事な営業スマイルに戻って「ありがとうございました」と言いつつ、しかし目線で「さっさと行け」と命令を下した。それを受けた郁の方も赤くなった顔をぶんぶんと首を縦に振ってカウンターから逃げるように退散する。
 あー、ホントに柴崎でよかった。わたわたと逃げ着いた閲覧室の隅で郁は大きく息をついた。柴崎が言った通り、堂上の姿が見えないのに郁が堂上の本を持っている方が、よほどか意味深で憶測の余地があるというものだ。これで相手が噂好きな女子館員だったりした日には、柴崎にしたのと同じ説明をしたとしても納得してもらえたかどうか。いや、納得するかどうかはこの際はっきり言って関係ない。噂話のネタにさえなればいいのだから。
 そういう話のネタにされることを堂上は絶対に望まない。だから今回は本当にラッキーだったと──
 あれ? 教官も返却チェックのこと、忘れてた?
 館内業務が大の苦手でうっかり者の郁ならともかく、全方位弱点なしの優秀な堂上がそれに気付かないはずはない。その割にはずいぶんあっさりと郁に本を預けたものだが──
「ああああん!」
 不意に郁の背後から子供の泣き声がした。


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