Gift 3-3

・・・・・from「Gift」

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「はあ、夜までまるまる暇ですが」
 でなきゃイブにこんなとこいないわよっ。そう内心で毒づきかけて──え? あれ? あの……その質問はどういう意味ですか堂上教官っ!
 なんでそう人に期待させるようなことを言うんですか! いやそんなはずないけど!
 ……と、普段だったらそのまま脳内大回転が始まるところだったが……いや多少は……いやいやかなり、空回りの回転数はあがった気がするのだが、それでも最後の糸が切れなかったのは、堂上の声がやはり先ほどと同じく業務中のそれと同じだったからだ。
 それなのに、そうとわかっているのに、それでもその声で言われたことは郁の熱を容赦なく引き上げて──
「クリスマス会、見てくぞ」
「へ?」
 ぷしゅう。沸騰しかけたやかんを火から下ろしたように、郁の頭の発熱が止まった。クリスマス会? ……って、今、サンタが入って行った、あれ? 郁は再びおはなし室の入口を見遣った。間もなく始まる会に参加するために親子連れや子供たちが続々部屋に入って行くのが見える。
「教官、実はクリスマス大好きとか」
「アホか。そんなんじゃない。……せっかくの公休に悪いが、仕事だ」
「仕事?」
 予想外というか、うっかり無駄に夢見そうになった事態とは真逆の単語に、郁は再び間抜けな声をあげてしまう。クリスマス会で、仕事? あたし、読み聞かせとかできませんよ? それとも何か一発芸でもやれと?
 そんなバカなことを口走りそうになった郁より先に堂上が口を開いた。
「昨日、第二図書館で置き引き被害が発生してる。で、今日この第一でも財布がないという連絡が数件あったそうだ」
 少しトーンを落としたその声に、郁の背がぴんと伸びた。今、完全にスイッチが仕事モードに切り替わったと自分でもわかる。その様子を見つつ、堂上が続けた。
「昨日は第二でもクリスマス会があった。人出が多くなるから狙われやすいんだろう。それで、ちょうど私服だから会の中に入って見ててくれと言われた」
「言われた?」
「入館時に今日配置の防衛部の班長と目が合って呼ばれてな、そこで話を聞いた。……返却まかせて悪かったな」
 ああ、なるほど、堂上が返却チェックがあるにも関わらずあっさり郁に本を預けたのはそういうわけか。ひょんなことから疑問が解けるが、今はそれを深く考えるときではない。それよりむしろ、
「あの、それって、犯人がクリスマス会の中にいるってことですか」
 しかし、クリスマス会の開催中におはなし室にいるのは事前に募集した子供たちとその保護者、それから館員たちスタッフばかりであるはずだ。それに会の最中はおはなし室の扉を閉めてしまうから部外者の出入りができるような状況でもない。そんな中で置き引きというのは考えにくい……というかむしろ不可能では、と郁は思うのだが、それでも今指示されているのは、つまるところクリスマス会の私服警備だ。
 郁の問いに、堂上は小さく首を振った。
「……まだわからん。ただ、公開の閲覧室なら通常配備の防衛員や一般の館員の目があるが、閉鎖したおはなし室にいきなり防衛員を入れて刺激する訳にもいかないからな。それに、子供たちもおびえるだろうし」
 それは確かにそうだ。もしクリスマス会の中に犯人がいるとしても、明らかに図書隊の人間が増えたとわかる中で犯行に及ぶとは思えないし(もちろん被害が発生しないならそれに越したことはないのだが、あえて私服警備を指示されたということはつまり「捕り物」……現行犯逮捕を指示されたということだ)、それに何より、わくわく楽しいクリスマス会の周りをカーキの防衛員が取り囲んでいたら台無しだ。
 犯人確保が第一の目標だが、郁としてはそれ以上に子供たちの楽しい時間を守りたい。そのためなら自分のヒマなクリスマスイブくらいいくら費やしたって構わない。
「わかりました。笠原も警備につきます」
 いつもならここでぴっと踵を合わせ、敬礼するところだが、私服警備に臨まんというこのときにそれをする訳にはいかない。郁は背筋を伸ばし、小さく頷いた。その郁に「よし」と同じように頷いてみせると、堂上はくるりと背を向けおはなし室へ歩き出した。その背を郁も追う。あくまでプライベートっぽい、ややゆったり目の歩調で。こんなところで訓練速度で歩いていたら目立って仕方がない。
 ……同じゆっくり目のペースで歩いても、さっきと今では全然意味が違う。
 郁はふとそんなことを考えたが、今はそんなときじゃないから! と頭を軽く振り、そして堂上に続いておはなし室へと入って行った。


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