Gift 4-1・・・・・from「Gift」 |
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4 おはなし室の中は、なんというか、カオスだった。 基本的にはおとなしく座ってクリスマス会の開始を待つ子が多いのだが、しかしやはりいるいる、走り回る子供、泣き叫ぶ子供、母親の膝にしがみついてむずかる子供、床に大の字になって寝入る子供、などなど。しかし、連れている母親の方もそんなちっちゃな子供の無尽蔵のパワーに負けることなく、あるいは無視して、マイペースでいなしたり、叱ったり、放置したり。 図書館に三年近く勤める郁だから、これはこれである意味見慣れた光景なのだが、だからと言って圧倒されない訳ではない。 お母さんってすごいなあ…… そんな感想が毎度のことながらじわじわ沸いて来る。 当たり前と言えば当たり前なのだが、子供慣れしている(あるいは甚だ不本意だが「子供並み」)と言われる郁だって、仕事中にやりたい放題の子供を相手にしてときには途方に暮れるから、やはり現役の母親はかなりミラクルな存在だった。 ……きっと、あたしが子供だったときには、うちのお母さんも相当ミラクルだったはずだけど。 自分も相当暴れん坊な子供だった自覚があるし、そして母の方はとにかく女の子らしくおとなしくさせたがっていたから、その攻防戦はさぞ周囲の失笑を買っていたのに違いない。 そんなことを考えながら堂上の後について部屋の奥まで進む。途中、運営スタッフの館員数人と目があったが、彼らにも既に堂上と郁が警備に入ることは連絡済みらしく、お互いあえて挨拶もせずに通り過ぎていく。 子供は演台に近い前方の床に座らせて自分は壁際で立ち見、という保護者も多いから、室内への視界をキープしつつその人混みに紛れ込んだ。と、郁の前に立っていた女性がくるりと振り向き最初に郁を、それからちらりと堂上を見、そしてもう一度郁に向き直って言った。 「わたし、邪魔になってないかしら。お子さん見えますか?」 そう言う彼女は郁より少しばかり目線の低い──つまり女性にしては割と長身の部類だと思う。というか、だからこそ郁は彼女の後ろに滑り込んだのだが、きっと彼女もこういう場所で自分の身長を気にすることに慣れているのだろう、別に彼女が気にすることでもないのに気遣いの言葉をかけてきた。 ……と、冷静に考えられたのは実は事が終わったその後で。 お、お、お子さんっ!? だ、誰の! 郁だけでなくわざわざ堂上も見た上で言われたその言葉は、二人が夫婦で、そしてその子供が前方にいるのだと彼女が信じて疑わないからこそ出て来たものであることは明らかだった。 ちょ、ちょっと待って! あたしと教官が夫婦とか! しかも子供がいるとか! そんなあれこれ一足飛びに、いやそもそも全くそれ以前っつーか論外っつーか、いやもうちょっと! 待ってえー! あまりの展開に思考回路が追い付かない郁が口をぱくぱくさせていると、彼女の隣にいた知人と思しき女性がくすくす笑って彼女の肩をたたいた。 「いやあね、違うわよ。この人たちは図書館の人よ。たまにカウンターとかで見かけるわ。……そうですよね?」 最後の一言はにっこり笑って後ろの二人を振り向いたその人に、郁はいまだにフリーズしていたが、それを無視する態で堂上がいつも通りの冷静な声で返した。 「ええ、今日は非番ですが。こうした企画を見ておくのも業務の参考になりますので」 その言葉に女性二人が「なるほどねえ」と頷き、先に声をかけてきた彼女が「勘違いしちゃってごめんなさいね」と恐縮したように頭を下げたので、郁は「いえっ、そんな!」と両の手をぶんぶん振ったが、あれ? これって夫婦と間違えられたことを悪くは思ってないように聞こえる? いや確かにそうなんだけど、それはあくまで前の二人に対してであって、教官には……教官が、気を悪くしない? だってあたしなんかと……じゃ、いくら勘違いでも迷惑じゃない? などと考え始めたらどんどんドツボにはまっていく。それで、うわー、うわー、と顔を手で覆って唸っていたら、さすがにこんなところで頭をぽかりとやる訳にはいかなかったのか、堂上の肘が郁の脇腹を小突いた。 「なに挙動不審になってる」 その声はやっぱりいつも通りの冷静な声で、郁はせめて不機嫌そうじゃなくてよかった、とは思うが、あんなこと言われて堂上教官はどう思ったんだろう……とふと考えてしまって、いや! 今そんなこと考えてる場合じゃないし! と、邪念を振り払うようにぶんぶんと頭を振った。 「すみません」 「……別にお前が謝ることはない」 あれ? 郁は 思わず隣の堂上の顔を見る。堂上の目線は隙なく室内を見回しているが、返された声がほんの少しだけぶっきらぼうに聞こえて……うわ、やっぱり不愉快だったかな、と郁は怯んだ。そりゃそうだよね、迷惑な話だよねあたしなんかとじゃ……と再び思考がそちら方面に走りかけたのをだからダメだったら! と慌てて引き止めようとしたところで、今度は背後から声をかけられた。 「よかったらお荷物お預かりしまーす」 え、と郁がその声に振り向くと、そこにいたのは予想していた館員の姿ではなく、それよりも大分若い……そう、さっき話したサンタくらいの年頃の男の子達だった。学生らしいラフな服装で、二人並んでにこにこしている。あのサンタは学生ボランティアだと柴崎が言っていたが、彼らもそのサークルのメンバーなのだろうか。 「あちらに荷物を預かる小部屋を用意してあるんです。言わばクロークですよ。最近、置き引きの被害もあるからって聞いたんで」 そう言って笑う眼鏡の彼は片手には既に二つの鞄を下げ、空いたもう片方の手で後方の扉を指差す。そうして示された扉の向こうがクロークと言うには随分とごたついた倉庫であることを知っている郁はつい苦笑してしまったのだが、その笑みを遠慮のごまかし笑いととったのか、彼は倉庫に向けた指先をひらりと郁に向け、鞄をどうぞ、と促すように手のひらを差し出した。しかし郁の荷物は寮から図書館に来るだけの財布や携帯などの最低限の手荷物のみだったからわざわざ預けるまでもない小ぶりの鞄だし、なによりかさばっていた図書は既に返却済みだ。だから、あたしは結構ですよ、と手を振ろうとしたのだが、そのためにあがりかけた肘を横からくいっと引かれ、え? なに? と振り返る間もなく、その引いた手の主が声をあげた。 「君たちは?」 郁に手を差し出す彼らに堂上が尋ねる。その声はさっきおはなし室の外で郁に呼び掛けたときとは違い、業務中モードよりはだいぶ柔らかなトーンで、堂上のそんな声を聞く機会があまりない郁は一瞬どきっとしたが──いやいやそうじゃなくて!──ああ、そうだよね、この人たちがサンタさんの仲間だなんてあたしの推測に過ぎないんだから、得体の知れない相手に荷物を預けるなんてこわいことするなって……ていうか、まずは確認しろってことか。あー、これは後で説教くらうかしら。あちゃあ、と肩を縮ませた郁とその隣の堂上に眼鏡の彼は「あ、すいません」と恐縮したように言った。 「僕たちは〇〇大学のボランティアサークルの者です。このクリスマス会のお手伝いをさせて頂いてます。サンタクロースもうちのメンバーなんですよ」 あ、やっぱりそうなんだ。郁は自分の推測が正しかったことになんとなくほっとする。いや所詮は推測でしかなかったのだから、確認を怠ったという事実は消えないのだが。 「ああ、でもあたしは、」 荷物小さいですし、自分で持ってますから大丈夫ですよ──そう言いかけたのを、再び堂上に遮られた。今度は手ではなく言葉で。 「笠原、お前も預かってもらえ」 |
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