Gift 4-2

・・・・・from「Gift」

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「え?」
 その予想外の言葉に郁は思わず堂上を振り返った。どうして? だってあたしの荷物はこんなに小さいのに。そう目で訴えるが、堂上はその無言の問いなど受け付けない。目はまっすぐに学生達を見ながら言葉を続けた。
「ただ、こいつに預けたいものがあるんで、それを入れてからでもいいかな?」
「もちろんです。じゃあ後でまた回ってきますんで、そのときにお預かりします」
「ありがとう、お手数かけます」
 軽く頭を下げた堂上に「いえいえ」と笑って学生たちは郁たちの前を通り過ぎていった。
「教官?」
 彼らが視界から消えると郁は堂上に疑問とも抗議ともつかない声を小さくあげた。だからあたしの荷物はこの通り小さいんだから預ける必要なんてないし、
「あ、もしかして捕り物のときにじゃまだから?」
 それなら納得はするし、最初に自分の考えがそこまで至っていなかったことを反省もするが、しかし堂上が郁に何を預けるって? 預けるものがある、と堂上は言ったが、たいていの男性と同様に堂上も財布や携帯といった身の回りのものはあちこちのポケットに収めてしまって手ぶらだから、もしこれから捕り物をするとしてもなんの差し支えもないはずだった。それなのに一体何を? そう首をひねる郁をよそ目に堂上は上着のポケットに手をつっこむと、何やら小さな包みを取り出した。あ、なんか壊れ物でも持ってたのかな。そう思いながら堂上の手の中の包みを見ていた郁の予想を裏切る事態が起きた。堂上がせっかくの包みをぺりりと開けたのだ。そうして出て来たものを見て郁は軽く目をみはる。
「教官、それ……」
 しかし郁のその声は無視して、堂上は中身の品の外装も剥いでしまう。そして郁に手を差し出し「鞄、貸せ」と短く言った。その手の中にあるものはとても小さくて、わざわざ郁の鞄に預ける程のものではなくて。なのにあえて郁の鞄にそれを入れるということは──
 郁は堂上に鞄を差し出す手が少しぎこちなくなったことに自分でも気付いていたが、堂上はそれを気にした風もなく鞄を受け取ると「悪い、開けるぞ」と一言断ってからファスナーを開け、中から荷物を一つ取り出すとそこに手の中のものを慎重に挟み込んだ。そして再び鞄の中にひっくり返して戻すと、鞄のファスナーは閉めないまま郁に返して寄越した。
「教官……これって……」
 鞄を受け取った郁は、どんな顔をしたらいいのかわからなくて、何を言ったらいいのかわからなくて、ただただ素直に困惑だけを表情に載せて堂上を見た。だって、だって、これは……こんな。
 しかし堂上は郁を見返すこともなく、「いいから入れとけ」とだけ小さく言った。それは、今堂上が入れたものの意味を、説明はできないがわかれ、ということで──そして郁は、それを理解した、と思う。
 どうして。
 よりによって、今、この場面で。
 よりによって、これを。
 いろんな思いがぐるぐるして郁は何も言えない。しかし、わかった、ということだけ伝えたくて黙って頷くと、堂上も同じように黙って頷き返した。
 その顔は、確かに上官モードで。
 だから郁は心の中でだけ敬礼した。渦巻く思いを無理矢理胸の奥に押し込めて。
 ……押し込めてもなお、じたばたと暴れ出しそうになるそれをなんとか押さえ付けて。
 そうしてしばらくたち、間もなくクリスマス会のスタート、という時間になってから、学生たちは郁の荷物を預かりに来てくれた。「もう大丈夫ですか?」と笑って声をかけてくれるのに「はい」と短く答えて郁は鞄を手渡す。それを受け取った学生たちがクローク代わりの倉庫の中へ姿を消したところで、ちょうどクリスマス会の進行役の女性館員が演台に立って開始のアナウンスをした。それに子供も大人も目が引き寄せられたところで、郁は堂上とともに静かに動き出した。混み合う保護者の隙間を縫って少しずつ移動する間に進行役のアナウンスは終わり、クリスマスを題材にした絵本の読み聞かせが始まった。そして、まるでちょうどそれとタイミングを合わせたかのように、かすかに、しかし耳馴染みのあるメロディが聞こえて来た。
 ジングルベル。
 ──ああ。
 耳に届いたそのメロディに、郁は唇を噛んだ。


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