Gift 5-1

・・・・・from「Gift」

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「わ、かわいい!」
 郁はコンビニの店頭で見つけたそれを手にすると、きゃあっと歓声を上げた。
 それは、小さなクリスマスカード。最近はやりのポップアップカードというやつだ。昔風に言うなら「とびだす絵本」か。郁が手にしたそれは名刺よりもやや大きい、といった程度のだいぶ小型のものだったが、開いてみると小さいながらもクリスマスツリーとスノーマンとサンタクロースがかわいらしく立ち上がった。背景にはキラキラ光る雪の結晶が散りばめてあり、コンビニの店頭で売っている割にはなかなかおしゃれなものだ。
 最近はコンビニでも、時期になれば年賀状よろしくクリスマスカードを販売するらしい。それだけクリスマスという行事が日常生活になじんでいるということなのだろうが、郁自身は誰かにクリスマスカードを送ったことはない。海外に知人がいるという手塚が今月の初めにクリスマスカードをエアメールで投函しているのを見て「さすがおぼっちゃんねえ」と感想を漏らして「誰がおぼっちゃんだ。大学の同期が海外赴任してんだよ」と呆れたように言われたくらいだ。
 正直郁にとってはその程度のなじみしかないものだが、しかしかわいいものはかわいい。他のカードはどんなのがあるんだろ、と陳列棚のカードを一枚ずつ開いて中身を見比べるが、やっぱり最初に見たカードが一番郁の好みに合った。あらためてそれを手に取って開き、「うん、やっぱりこれがかわいい」と満足げに頷き……後ろからゲンコツを落とされた。
「いったいなぁ! 何すんですか!」
「何度も何度もピロピロやかましいわ! 買うならさっさと買ってこい!」
 郁にゲンコツを落とすと言えば、この人しかいない。左手にレジ袋を下げた堂上が、空いた右手を容赦なく郁の頭に落としたのだった。その後ろでまだレジで精算中の小牧が「女の子はかわいいもの好きだもんねえ」と笑い、さらにその後ろで列に並ぶ手塚が「このバカ」と呆れたような目で郁を見ていた。
 それは数日前の夜勤中のこと。深夜二時の夜食の買い出しに堂上班一同でコンビニに繰り出したときのことである。一番に清算を終えた郁が、他の三人を待つ間に入り口そばに据えられたクリスマスカードの陳列棚につかまっていたのだった。
「いーえ、買わないですよーだ」
 郁が口を尖らせて手にしたカードを陳列棚に戻すと、それを見た堂上が少し不思議そうな顔をした。
「欲しくて見てたんじゃないのか」
 そのまっすぐな質問に、郁は少し気恥ずかしくなった。
「んー、すっごいかわいいんですけど、やっぱりこういうのは送ってなんぼじゃないですか。自分用に買うのって、なんかむなしくないですか?」
「ああ、笠原さんってバレンタインで友チョコとかマイチョコとかやらなさそうなタイプだしね。律儀と言うかなんというか」
 遅れて清算を終えた小牧が会話に加わる。その言葉に「なんだそれ」と堂上が振り返ると、さすがに彼女が現役の学生だからか、そのあたりの事情には堂上よりもずっと詳しい小牧が簡単に解説した。
「もともと、バレンタインって女の子が好きな男の子にチョコあげるもんじゃない。でも最近は、女の子同士で送り合ったり、おいしいチョコは男に送るより自分で食べたいって自分用に買ったりするのも普通にあるんだよ。でも、笠原さんはそういうことしなさそうだよね。バレンタインのチョコは男の子にあげるものだって、それこそ原則を守ってそうな感じだよ」
「わあ、なんでわかるんですか!」
 確かに郁が学生のときにもその風習は既にあって、郁も友チョコの輪に誘われたりしたものだが、しかし毎年頑なにそれを断った。そりゃあ郁だってチョコは大好きだから、いつだっておいしいチョコを食べたいと思っていたけれど、でも、バレンタインは違うでしょ! 自分用ならそれ以外の日にいくらでも食べられるじゃない! バレンタインは、バレンタインだからこそ、送るべき人に送るべきよ!
 そう言って断っては「うわあ、笠原、どんだけ乙女なのあんた!」と笑われたものだった。
 今思えば、友チョコだってただのイベントなのだし、そこまで頑なにならなくてもよかったとは思うが、しかしそれでも、「送るべきものは送るべき人に」という気持ちは今でも変わらない。
 だからクリスマスカードだって、それがそもそも送るためのものならば、やはり誰かに送るのでなければ買っても仕方がないと思うのだ。
 そんなことを考える自分はやっぱり変なところで頑ななのかもしれないけれど。
「バレンタインなんか菓子業界の策略なのに、なんでそんなとこでクソ真面目になってんだ」
 最後に清算を終えた手塚まで加わってさらに刺されると、郁はさすがにげんなりとした。
「あーもー、バレンタインは関係ないでしょ! 今はクリスマスカードの話! それなら変なこと言ってないでしょ!」
「それにしたって、買う気がないなら手当たり次第に開くな。商品が痛むし、何よりうるさくてかなわん」
 そして話題を正しくクリスマスカードに戻した堂上の叱責に、郁は言い返しようもなくへこんだ。
「う、すみません……」
 郁があれこれ見比べていたクリスマスカード。それは光センサーを内蔵しており、開くとさまざまなクリスマスソングが鳴り響くのものだった。
 きよしこの夜。
 そりすべり。
 赤鼻のトナカイ。
 サンタが街にやってきた。
 そして……郁が一番気に入ったカードからは「ジングルベル」が軽やかに流れていた。


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