Gift 7-2

・・・・・from「Gift」

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 そうしてしばらくしてから、堂上がやっと言葉の続きを口にした。
「部屋に入る前に詳しい状況を説明できなくて悪かった。急なことで時間がなかったから仕方なかったと言えばそうなんだが、関わったからにはいずれ必ず知ることで……あんなかたちで知らされたらショックだっただろ、お前のことだから」
「そんな、こと、」
 そんなこと、堂上が謝ることではない、と言いたいのに声が出ない。いつまでも子供で、そのせいで傷付いてしまうのはあくまで郁の問題なのに。悔しくて膝の上の手をぎゅっと握りしめた郁に、さらに思いがけない言葉が降って来た。
「それでも、お前は最後まで笑って、仕事をやり遂げた。お前が自分で言ってた通り、図書館に来る子供の夢を守ってやれたんだ。巻き込んで悪かったが……しかし俺は、お前を連れていった自分の判断はやっぱり間違っていなかったと思う」
 ──お前は、俺の自慢の部下だからな。
 最後にそっと、しかし力を込めて言われた言葉に、郁は今度こそ堂上の手を振り切って顔をあげた。
 きっと泣きすぎてぼろぼろになった自分の顔は見るに堪えない状態になっているのに違いない。普段ならぶぶっと噴き出されるか、あるいは「なんだその顔は! とっとと洗って出直してこい!」とか怒鳴られていてもおかしくない程の。
 なのに、そんな郁を見つめる堂上の顔は決して笑っても怒ってもいないどころか、見たことがないほどに優しくて、そして……その瞳はまっすぐで。
 あたし、この人に信じて、認めてもらえてるんだ。
 素直にそう思えた。
 今までずっと追いかけ続けて来た──そしてこれからもずっと追いかけ続けたいその背中に振り向いてもらえたのだと。あたしはここにいると認めてもらえたのだと──ここにいてもいいのだと、そう言ってもらえた気がした。
 うれしい。
 どうしよう……どうしようもなくうれしい。
 ただでさえぼろぼろの顔がさらにくしゃりと歪む。郁は堪え切れなくて両手で顔を覆うと肩を震わせて、これまで以上に大きな鳴咽をもらした。口からこぼれる泣き声がそれこそ子供のようで恥ずかしい。でももう止められなかった。
 あたしは、サンタクロースは来ないって知っている。
 だけど、それでもやっぱり、今日はクリスマスイブなんだ。
 だってそうでもなければ、こんな最高のプレゼントが自分に贈られるはずがない。
 赤と白のサンタクロースが来てくれた訳ではないけれど、枕元の靴下の中ではないけれど、それでもこれはとびっきりのクリスマスプレゼントだった。
 まだまだ届かないと思っていた、だけどどうしても、そして何より欲しかったものを、もらえたのだから。
「ありがとう、ございます」
 止まらないしゃっくりのような嗚咽の合間になんとか送り出した感謝の言葉は、もちろん堂上に。それから──きっとどこかにいるサンタクロースに。
 こんなにしあわせなクリスマスイブをどうもありがとう。
 郁の言葉に頭の上の堂上の手が一瞬止まる。そして、一、二度、ポンポンと頭の上を跳ねて、それから離れて行った。
 ああ、行っちゃった。
 相変わらず息苦しい嗚咽の中で郁はぼんやりと思う。離れていってあらためて、その手がどれだけあたたかくて、優しかったのか思い知る。いつだって、郁を励まし、前に進む力をくれる、大好きな手。
 もっと、ずっと、触れていてほしかったのに。
 だけどそんなことを言えるはずもないから、やっぱり子供のように泣き続けるしかない郁の耳にギシリという音が聞こえた。何の音? と思った次の瞬間、郁の体が前に傾ぎ、そのまま頭が堂上の肩に突っ込む。えええ? と郁が目を丸くしたのと同時に、さっき離れて行った堂上の手が今度は後頭部に戻ってきた。そのまま頭を肩に押し付けられる。
「ハンカチ代わりだ」
 いつかも聞いたその言葉に、郁は今、自分がどういう状況にあるのか理解した。
 泣いてしまえ、と言われている。あのときのように。存分に泣いて、痛みを吐きだしてしまえと。
 ……今は、そうじゃないのにな。
 押しつけられた肩はあのときのようにスーツではなく私服のフリースだから、もっとずっとやわらかくてあたたかい。そのぬくもりを感じながら、郁はひそかに苦笑した。
 これは、うれし泣きなのに。
 確かに、サンタたちのことは悔しくて悲しくて……泣きたかったけれど、今はそれ以上にうれしい気持ちが大きくて、溢れすぎて、だからこんなに涙が出るのに。
 だけどそれは、堂上は知らなくていいことだ。だから、郁も反論しない。そのまま、あたたかい肩を借りて、溢れた気持ちの分の涙を流し続けた。その郁の頭に添えられた堂上の手は、いつのまにか再び、優しくその髪を撫でていた。


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