Gift 8-2・・・・・from「Gift」 |
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と。 パーティションの向こうでドアが開く音がし、何人かの足音がし、続けて「あ、ちょっと!」と柴崎の声がした。え、柴崎? 何事か、と吸い込んだ息もそのままに固まった郁がパーティションの切れ目、この一角への入口へ目をやると、そこにカーキの隊服姿の男子隊員と柴崎とは別の女子館員が現れた。どちらも郁の同期だ。その後ろに少し遅れて柴崎が追い付いてくる。その顔はまるで苦虫を噛み潰したようで……それでもやっぱり「綺麗」という形容がはずれないのがさすがだ。 「お、いたいた」 「あれ、どしたの?」 せっかく吸い込んだ息は、予定外の言葉になって押し出された。郁が問うと、防衛員の同期が郁へずいっと腕を差し出す。その手には郁の鞄があった。 「あ、もういいの?」 郁が椅子から立ち上がって自分の鞄を受け取ると、彼は「おう、あっちはもう撤収だ」とにかっと笑った。それから端末の前の堂上に向きなおると敬礼して、 「堂上二正、お休みのところをありがとうございました。おはなし室での利用者への説明並びに荷物の返却はすべて完了しました」 と報告した。それに堂上は座ったまま頷き、「ご苦労だった」と返した。 「で、笠原」 今度は敬礼を解いて郁の方を向いた防衛員の同期が人好きのする笑顔を向けた。その後ろから館員の彼女がずいっと顔を出す。 「もうすぐこっちもあがりなんだ。で、同期の独り者組で飲みに行こうって話になってるんだけど、あんたも来なさいよ。暇でしょ?」 クリスマスイブに一人で寮に帰るなんてさみしくて仕方ないもの、ねー? そう言う彼女の笑顔は普通に楽しそうで、その後ろの柴崎の苦い顔とは対照的だ。ていうか、柴崎、なんでそんな顔してんの? ──とか思う、その一方で。 え、えーと、あのー……あたし、これから、堂上教官とご飯食べに行こうかって話をしてて……でもあたし、まだ「行きます」って返事してなくて……でもでもっ、どっちに行きたいかと言えばそりゃ教官と一緒がいいんだけど! でも、ええと、あの、それ、ここで言ってもいいんだろうか? だって堂上教官は、その手の話で変に噂話のネタにされたりするのは絶対嫌だろうし……だって教官は、単に部下をねぎらうために誘ってくれてるんだから。ああでも、だったらなんて言ってごめんなさいすればいいの? 郁の頭はフル回転するが、しかし肝心のところにはうまいこと引っかからない。ああもう、ホントに使えないあたしの頭! そう郁が自分の頭にダメ出ししていたら、なぜか堂上がその場を引き取った。 「行ってこい。他の部署の同期と飲みに行くなんてなかなかないだろ、お前」 え? 郁はくるりと背後を振り返る。そこにいる堂上は相変わらず椅子に座ったままで、その目は郁を誘う同期を見ていた。 てか、なんであんたが決めますかそれを? あたしは、教官と一緒に行きたいのに。 そう、心の底から思っているのに、なのに郁の口から堂上の言葉を否定する言葉は出てこなかった。 だって……やっぱり、本当は、迷惑だったのかな、とか。仕方ないからつきあってやろう、って思ってたところに同期が来たから渡りに舟だったのかな、とか。 そう思ってしまったら、「あたしは教官と食事に行く」だなんて、とてもじゃないけど言えなかった。言いたくてたまらなかったけど……言って、迷惑になるのかもしれないことを言う勇気はなかった。 だから、堂上の言葉に「はい」と頷くしかなかった。 「よし、じゃあ定時三十分後に寮のロビーで待ち合わせな。店はこっちで押さえてるから」 「どうもおじゃましましたー」 誘いにきた二人は郁を仲間に加えることに成功して満足げだ。そんな二人に柴崎が不機嫌そうに釘を刺す。 「まったくもう、まだ業務中だってのに遊びに来てんじゃないわよあんたたち。堂上教官たちだって公休だってのに時間割いて報告書書いてくれてるんだから。邪魔すんじゃないわよ」 ああ、柴崎の不機嫌顔はそのせいか。郁はようやく納得する。言われて腕時計に目を通せば彼らの定時まではまだあと十五分ほどあるし、そうでなくても業務部は閉館までの数時間、まだまだ業務が続くのだ。 「だから柴崎も来ればいいのにー。遅番から合流すればいいじゃない」 「行きません。あたしは残業があるのよ」 「柴崎さん来ればみんな喜ぶのになあ」 「行かないって言ってるでしょ。さあ、とっとと行った行った」 言いながら同期二人を追い立てる柴崎が、ちらりとこちらを振り向いた。そして二人に向かって一言、 「やっぱりお人好し」 と謎の言葉を残し、再び同期の背中を押してパーティションの向こうへ消えて行った。 |
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