Gift 9-2

・・・・・from「Gift」

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「ああ、そうだ。お前、そろそろお茶、探しとけよ」
 背中に声をかけられて、郁はぎょっとして振り返った。……お茶、って。
 郁と堂上の間で「お茶」と言えば、カモミール……カミツレのハーブティのことで。そして最近その話題が出たのは、十一月の茨城県展警備のときで。「東京に戻ったら探しとけ」と確かに言われた──言われたが、上官の公休日というプライベートの時間を使うのが明らかなそのイベントを本当に決行に移してしまっていいのかどうにも決断できなかった郁は、結局今までずっと保留していたのだった。
「あ、あの……お店、行かれますか」
「行かれますか、って、お前、連れてけって前から言ってるだろうが」
 つい自信なさげな声になってしまった声に、堂上が不思議そうな声で返す。それに郁もあわてて言葉を続ける。
「あのっ、お店の見当はつけてはあるんですけど、基地からちょっと離れてるんで、公休日じゃないとちょっと時間的につらいかなと……でも、貴重なお休みにご足労いただくのも、あの、なにかなーとか」
「ご足労って、だから俺が連れてけって言ってるのに何言ってんだ。だいたい、そういうプライベートの用事のために公休日があるんだろうが。……で、当てはあるんだな?」
 腰が引け気味の郁に対してまるで業務連絡の確認のように問い返す堂上に、郁はただ頷くのみだ。
「は、はい」
 肯定する郁に、堂上は頭の中でスケジュール帳をめくるように視線を宙に向けた。
「じゃあ、次の公休……は正月だから、すまん、俺がだめだ。その次……確か十五日だったよな。そこでどうだ」
「は、はいっ」
「よし。じゃあ、そこで。……楽しみにしてる」
 そう言って最後に郁に向けられた顔は、不意打ちをくらいまくった今日一日の中でも、なんというか、最高に──ねえ、よりによってこの人に対して、「甘い」って表現遣っちゃっていいの!?──でも、そうとしか言えない笑みを浮かべていて、
 ちょ、ちょっと待って! あんたあたしを萌え殺す気!?
 いっそ命の危険すら感じた郁は、「じゃ、じゃあ! 待ち合わせがあるので! お先に失礼します!」ともう一度ぺこりと頭を下げ、鞄を胸に抱えると今度こそ早足でパーティションの外へ出た。そのまま業務部のオフィスを通り抜け──向こう側の席で柴崎がにまにましているのにも気づかず──ドアを開けて通路に出て、通用口のドアを開けて閲覧室に出ると、一目散に玄関まで通り抜けた。二重の自動ドアをくぐり抜けると外はもう日が完全に落ちて真っ暗だ。その闇の中、 クリスマスツリーもどきの常緑樹がイルミネーションをきらきらと輝かせていた。郁はそこまでずっと急ぎ足だった歩みを止めて、その光をじっと見上げた。
 今日はクリスマスイブ。
 サンタクロースが子供たちに夢とプレゼントを持って訪れる夜。
 だけど、郁にはもうサンタクロースは来ないはずだった。だって、郁のサンタクロースは父と母で、そして自分はもう、両親にプレゼントをねだるような歳ではないから。
 なのに。
 もらっちゃった。
 プレゼント。
 それも三つも。
 しかも、どれもこれも、あまりに大きくて、うれしくて。
 だってそうでしょう?
 ひとつは「信頼」……あの人を尊敬して、追いかけたい、部下としてのあたしが、何より欲しかったもの。
 ひとつは「クリスマスカード」……それも、郁が欲しがっていたものをわざわざ選んで。それは、堂上が郁のことを見ていてくれたということ。
 そして、もうひとつは、「約束」……プライベートの時間を、これからくる未来を、郁と過ごすために割いてくれる……とっておいてくれるということ。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう。こんなにうれしいことばっかりで……どうしていいか、わからない。
 だけど、これだけはわかる。
 このクリスマスイブは、絶対に、一生、忘れられない。

 ──忘れない。

 ねえ、サンタクロース。
 郁は昼間のひとときすれちがった年若いサンタを思い出す。
 いつか、あなたが罪を償ったら。どうかまた、サンタクロースになって。
 そして、今度こそ本当に、子供たちに夢を配って。
 自分のことを見守ってくれていて、自分のために贈り物を届けてくれる。
 そうして贈られたプレゼントは、どれだけ人を幸せにすることか。
 だから、どうか、サンタクロース。
 今度はあなたが、誰かを幸せにしてあげて。
 今日、いろんな人を悲しませてしまった分、もっともっとたくさんの人を。

 そして、どうか今夜、すべての子供たちに、素敵なサンタが訪れますように。

 でも、きっと大丈夫。

 だって、大人になった郁にさえ、どこかで見守ってくれているサンタクロースが特大のプレゼントを贈ってくれたのだから。
 確かにプレゼントを直接くれたのは堂上教官だけど──堂上教官がサンタクロースって、似合わないしね?

 少しだけ……ほんの少しだけサンタな堂上を想像して噴き出してしまった郁は、今度こそ寮への道を小走りに歩き始めた。その背後でクリスマスツリーもどきが「メリークリスマス!」と歌うようにきらきらと光をふりまいていた。


fin.


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