サンタクロースの勇気 5

・・・・・from「Gift」

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 ああ──やっぱりそうか。
 その笑顔が、堂上にすべてを悟らせた。
 さっき、自分が郁に拒絶されたと思って、しかしそうではないのだと知った時と同じに。
 郁は、堂上に拒絶されず、受け入れられたことに安堵し、喜んでいる。これはその笑顔だ。
 なぜそんな風に思うのか、理屈をつければいろいろあると思う。だがしかし、これは完全に直感だった。直感だが──いや、直感であるがゆえに、確信になった。
 この笑顔の理由が本当に自分と同じなら……やっぱり、勘違いなんかじゃない。
 俺たちは、同じじゃないか。
 そう思ったら、堂上はなんだかおかしくなってきてしまった。この場所に──そばにいるために。ただそれだけのために必死になって言い訳を探している自分たちはひどく滑稽で、そして臆病者だ。
 しかし、その臆病の殻を打ち破るのは、やはり堂上ではなく郁なのだ。
 飲み会帰りだし、酒の勢いも手伝ってのことかもしれない。だとしても、最初に口火を切ったのは郁だった。郁がサンタクロースよろしくプレゼントを持ってやってこなければ、堂上はこの先もずっと自分の勘違いに気付かずに、いつまでもあれやこれやと言い訳を積み重ね続けていたのに違いない。
 まったく、こいつはとんだサンタクロースだ。こんなどでかい爆弾寄こしやがって。
 それがほんの少しだけ憎たらしくて、堂上は郁の頭の上に載せたままの手を浮かせ、一度だけぺちりとはたいた。「たっ!」と声を上げた郁が、何するんですかもう、と言いながらはたいた場所を自分の手でさする。
「いつまでもこんなとこにいると風邪引くぞ。明日欠勤でもしたらこれじゃ済まないからな」
「わ、わかってますってば! もう、どうしてそうなんでも暴力に訴えるかな」
「はたかれんで済むよう日々精進するんだな」
 言いながら堂上は立ち上がる。そして、カードを持っていない方の手を郁に差し出した。
「ほれ」
 しかし言われた郁は目の前にある堂上の手の意図がつかめないのか、きょとんとしたままだ。しょうがねえな、と小さくため息をついて、堂上は郁の膝の上にあった手を掴んで引っ張り上げた。堂上よりも背が高いくせに、掴んだその手は堂上のそれよりずっと華奢で、やわらかかった。
「うわぁ!」
 いきなり引っ張られて素っ頓狂な声をあげた郁の顔は、立ち上がれば堂上よりも少しだけ上にある。その顔を軽く見上げて、堂上は小さく笑った。
「顔、真っ赤だぞ。水飲んでとっとと寝て酔いをさませよ」
 その赤さが酒のせいだけでないという確信の元にそう言ってやれば、ただでさえ赤い郁の顔がなおさら赤くなる。挙句、堂上に聞こえるか聞こえないかの声で(ということは聞こえているのだが)「だっ誰のせいだと」などと呟くので、こいつは、と思いながら「何か言ったか?」と突っ込むと「いいいいえっなんでもっ!」とぶんぶんと手を振る。そんな郁に、堂上はおかしさをこらえきれなくて思わずぷっと噴き出してしまった。
 こんなにわかりやすいのに、俺は一体今まで何を見てたんだ。
 しかし、堂上のそんな気持ちなど郁に伝わるはずもなく。
「なっなに笑ってるんですかっ!」
 赤い顔のままの郁に突っかかられて、堂上は「なんでもない、いいからとっとと寝ろよ」とそれをいなした。
 わかってますってば! とふてくされたような声を返す郁の頭にもう一度だけぽんと手を載せて、堂上は「じゃあな」と踵を返した。その背後から小さく「お、おやすみなさい……」と郁の声が聞こえて、堂上は郁に見えないように再び笑った。今度は苦笑ではなく、胸がこそばゆいような、しかしあたたかくなるような、不思議な気持ちで。
 郁の気持ちが垣間見えたからとは言え、今すぐどうこうするつもりはなかった。それは堂上自身がさっき気付いたばかりのこの状況をまだ自分の中で整理しきれていないからでもあるが、そうでなくとも普段から上官として厳しく当たっている堂上がいきなりそんな話を切り出したら、あの郁のことだ──そりゃ、あの様子なら最終的に拒絶されることはない……と思う……思うが、それにしたって──、最初はテンパッてひどい挙動不審になるのに違いない。それで仕事に支障が出ても困るし、とふと思ってしまうのは、言い訳でも何でもなく、堂上がどうしたって郁の上官だからか。
 そうでなくても、別に焦ることはない、と堂上は思う。なにせ、出会いから今ここに至るまでに既に七年もたっているのだ(郁にとっては三年だが)、今更慌てたところで何が変わるとも思えない。それよりはこの、近いようで遠い距離を、ゆっくりゆっくり縮めていけたらいい。それもできることなら、自分からだけでなく、郁の方からも。
 お互いの背中を見つめるところから始まった俺たちだが、どうやら今はお互い向き合っているようだからな。
 堂上は自分も気付いたばかりのそのことを思って、再び苦笑する。
 だからお互いに、ゆっくり、自然に近付いていけたらいいと思う。だが、そのためには、
「しばらくはまだ、言い訳が必要だな……」
 手にしたクリスマスカードに目を落とし、堂上は小さく呟いた。そのカードは、堂上に会うために必要だった郁の言い訳だ。郁に言い訳が必要なうちは、堂上もまた、言い訳をしなくてはならない。
 それはただ、郁のために。
 郁をおびえさせないように。萎縮させないように。郁が言い訳を必要としなくなる日まで。
 上官だから。これからもそう言って堂上は郁のそばにいるだろう。しかしそれが言い訳であることは……本当の理由は、いつかその日が来るまで、堂上の胸にしまっておけばいい。
 その奥にしまった宝石と一緒に。
 ──次に取り出すときには、二ついっぺんに取り出せるといいがな。
 我ながら恥ずかしいことを考えたものだ、と堂上はその考えを振り切るように頭を振ると、手にしたカードをあらためてゆっくり堪能すべく、自室のドアを開けた。


fin.


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