サンタクロースの憂鬱 2

・・・・・from「Gift」

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「堂上教官のことだから、せっかくの休みを潰したお詫びに、とか言ったのかなーと勝手に想像してたんですけど。違いました?」
 あくまでさらりと言えば、堂上の方もあくまで普通を装って「なんでそんなこと」と返してくる。しかしその声は明らかに動揺を取り繕うための無愛想さで、柴崎はますます込み上げる笑いを押さえるのに必死だった。もちろん、そんな素振りは微塵も見せないが。
「いや、うちの同期が笠原誘ってたときに、あの子がやけにちらちら教官のこと見てるなーと思って。だから、先に教官となんか約束したのかなーって思ってました」
 なのに教官が、同期と行け、とか言うから、びっくりしたんですよ、あたし。
 肩越しに首だけ振り返り、やや上目遣いに堂上を見遣ってそう言えば、そこにあるのはますます苦くなった顔だった。
 ──そんな顔するくらいなら、やせ我慢して譲らなければよかったものを。
 柴崎がそう思ってしまうのも仕方ないようなその苦い顔で、堂上が吐き捨てるように呟いた。
「別に……毎日嫌でも顔を合わせる人間より、めったに同席できない人間を優先するのは当然だろう」
「ああ、やっぱり誘ってたんですね」
 すかさず突っ込んだ柴崎に、堂上があからさまにぎょっとした。しまった、という堂上の心の叫びさえ聞こえるようなその反応に、柴崎は容赦なくとどめを刺した。
「でも、笠原がどっちに行くかなんて、教官が決めることでもないと思いますけどー?」
 だって、プライベートですしね? にやりと笑って言い放った言葉に、堂上が刺されたような顔をした。
 そう、郁がプライベートの時間をどう過ごすか……クリスマスイブの夜に堂上と食事に行くのか、同期と飲みに行くのか、どちらを選ぶかなんて、「ただの上官」である堂上が口を出す筋合いは全くないのだ。そんな当たり前のことに柴崎に言われてやっと気付くくあたり、堂上も相当余裕がないな、と柴崎は苦笑した。
 ──それでも、そこでそう言って同期の方に行かせちゃうのがこの人なのよねえ。
 郁も堂上も、お互いのことを憎からず──どころか、本気で惚れ合っていることくらい、今さら周りから見たってバレバレだし、そしてどうやら堂上の方もようやく自分の気持ちを認めたようだ(まったく、本当にようやくだ、と柴崎は何度ため息をついたことか)。
 それでも、二人はまだ何も言っていないから。
 今はまだ、ただの上官と部下だから。
 そんなことを考えているのに違いない堂上がプライベートで、しかもクリスマスイブの夜に食事に誘うなんて、それこそ「休日を潰したお詫び」くらいの、郁に対してだけでなく、周囲に対しても完璧に言い訳が立つ名目がないとありえないことだったろう。
 それなのに、そうしてやっと作った機会すら、堂上は譲ってしまうのだ。
 それはつまり、堂上がそれだけ郁を大事にしている、ということだ。堂上が望んで手に入れた機会よりも、郁によかれと思う方を取らせることを優先してしまうほどに。「ただの上官」である以上なおさらのこと、自分を優先させるようなことは絶対に言わないに違いない。
 残念ながら、その気遣いは的をはずしているけれども。
 同期に誘われたときの郁の困惑顔を思い出して、柴崎は小さくため息をついた。郁はどう見たって堂上と行く方を望んでいたのに、その選択肢を当の堂上が断ち切ってしまってどうするというのだ。
「……それより、飲みに行って下手に酔い潰れて周りに迷惑かけなきゃいいんだがな」
 あ、逃げたわね。柴崎の突っ込みには触れないまま話題を変えた堂上に、柴崎は軽く眉をひそめた。そうかそうか、そんなにあたしにいじめてほしいか。
「そうですねえ。またいつもみたいに誰かに担がれて部屋まで搬送されてくるようじゃ困りますしねえ。それに今日は、あたしもこれから外出しますんで。……あたしがいない間に誰かが部屋まで運んでくれるのかしら?」
 あら困ったわ、と頬に指をあてて嘯いて見せる柴崎を、堂上が再びぎょっとしたような顔で凝視した。あらまあ、その顔、こわいんですけど。
「どうしましょう、そうなったら困るので、堂上教官、迎えに行ってやっていただけますか?」
 堂上教官ならもう何度も連れて帰っていただいてますし、あたしがいない間でも寮監さんが部屋まで通してくれると思いますし?
 指を頬にあてたまま、上目遣いでそう言えば、堂上がこれ以上ない程に眉間に皺を寄せた。
 ──きっと今、ものすごい葛藤してるんだろうなあ。
 その心中を思い、柴崎は心の中だけで盛大に苦笑する。
 酔い潰れてしまうかもしれない郁が心配で、そして本当に潰れてしまった時に他の男に背負わせるのも絶対に嫌で、だから本当なら迎えに飛んでいきたいのに違いない。しかし、そこでもやはり自分の気持ちと行動に歯止めをかけてしまうのだ、この人は。
 だって、二人はただの上官と部下だから。「上官だから、面倒見てやらなければいけないから」という言い訳が立たないプライベートにそこまで介入できないから。言い訳なんてなくてもそばにいてもいい関係ではない……お互いの思いを確かめていない今の状態でその領域に入ることは決して許されないとでも考えているのだろう。そのくせ、ときには勇み足で踏みこんでしまうくせに。
 それでも……いや、それほどに、心配で心配で仕方がないのだ。
 ──本当に、あの子のこと、大事なのね。
 堂上の表情があまりに真剣なので──そして、さすがにいじめすぎたかな、とほんの少しだけ反省して、柴崎はついこらえきれずに噴き出してしまった。
「な、なんだ」
 いきなり噴き出した柴崎に、堂上の顔が微妙に歪んだ。その顔に柴崎は「すいません、つい」と返す。
「ごめんなさい、冗談ですよ。安心してください、あの子が潰れて部屋まで搬送されるのは堂上教官がいるときだけですから。他の飲み会は頑張って自力で帰ってきますよ、必ず」
 あの子が堂上教官以外の人間におぶわれて帰ってきたって話、聞いたことないでしょう?
 そう補足してやれば、強張っていた堂上の顔が目に見えてほぐれる。まったく、わかりやすいったらないわね、この人も。今でこそ柴崎がそれを目にすることはほとんどないが、昔は堂上も郁のような直情径行型だったという話を、こんなところで納得してしまう。


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