サンタクロースの憂鬱 3

・・・・・from「Gift」

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 郁が特殊部隊の飲み会以外は必ず自力で帰ってくるのは本当だ。それは郁が途方もなく酒に弱いのを周りが知っていて飲ませないのも大きな要因ではあるが(特に、特殊部隊の飲み会のたびに堂上に搬送されているのを毎度見せつけられている女子寮の面々が強力なストッパーになっている)、何よりも、郁自身が気をつけて……気を張っているから、こそだ。
「だめですよねえ、堂上教官がいれば連れて帰ってくれるからって甘えてるんじゃないですか、あの子。もっと厳しく教育した方がいいんじゃないですか?」
 言われた堂上がひどく複雑そうな顔をした。それはそうだろう、酔い潰れてほしくなどないのに、しかしそんな甘えを見せるのが自分だけなのだと言われたら。
 そう、堂上がいなければ、郁は潰れないのだ。本人は「これ以上堂上教官に迷惑かけられない!」と毎度気張って出かけて行くけれども、結果は全戦全敗だ。確かに、特殊部隊の面々がそんな二人を面白がってわざと郁に飲ませているからこそではあるのだが、それにしても。
 まったくもう……わかりやすすぎよ、あんたたち。
 かわいいったらありゃしない。いっそ、憎たらしいほどに。
「まあ、特殊部隊のみなさんの飲ませ方が容赦ないだけって話かもしれませんけど? 普通は、年頃の、酒が滅法弱いってわかってる女の子潰したりしませんもんねえ」
 ──それこそ下心でもなければ?
 にやりと見上げるように言う柴崎に、堂上が一瞬硬直し、それから自然な振りを装って、でも明らかに眉を寄せて柴崎から目をそらした。
 ああもう、ほんとにかわいい人ね。
「やあだ、冗談ですよ 特殊部隊にそんな下心のある人なんかいませんって。ねえ、堂上教官?」
 あなた以外にはね?
 最後の一言はもちろん声に出さず、でもきっと堂上が勝手に、しかし正しく受け取ったことだろう。背けた顔がかすかに赤くなったのを確認して、いいかげんこの辺でやめてあげないとかわいそうね、と柴崎は今度こそ「長々おじゃましました。失礼しまーす」とにっこり笑って踵を返し、パーティションの脇を通り抜けて業務部のエリアへ戻り、自分の席についた。背後を堂上の深いため息に送られながら。
 まったく、本当に、かわいい人たち。
 自席で中断した仕事の資料を開き直しながら、柴崎はくすりと笑う。しかし、その笑みにかすかな苦味が混じっていることには、気づかなかった振りをする。
 こんなにお互いラブラブなのに、どうしていまだにくっついてないのかしらね、あの人たちは。
 今までもう数え切れないほど心に湧いた問いを今もまた繰り返し、でも、恋愛なんてそんなものかもね、と、柴崎は自分自身の過去の恋愛──と呼んでいいのか、今となっては疑問にさえ思うけれども──を振り返って思う。
 きっと、タイミングというものがあるのだ。思いを伝えるタイミング。受け取るタイミング。
 ──それにしたって、あの人たちはいいかげん引き延ばし過ぎだと思うけど。
 それでも、一度どちらかがその思いを口にしてしまえば、その思いは叶わないはずはなく、そしてその後はきっと、もう二度と離れないだろうことは明らかだった。

 あの恋は、そう遠くない未来に、叶うのだ。必ず。

「うらやましいこと」
 無意識に小さくこぼれたつぶやきに、柴崎自身がはっとする。だけど、何がうらやましいのか、自分はちゃんとわかっている。──わかっているとも。かすかな苦さがそのせいであることも、全部。
「……飲まずにやってられますか」
 柴崎の定時を告げるチャイムが鳴るのを聞きながら、デスクの下に収めた鞄から携帯を取り出す。
 さっき堂上に「これから外出する」と言ったのはあくまでもネタの一環で、本当は何の予定もなかったが、それを事実にしてもいいだろう。
 あたしだって、今日はクリスマスイブなんだから。飲んで憂さを晴らすくらい、したっていい。
 別に今日は、恋人たちだけの日ではないしね?
 アドレス帳から呼び出した名前を見ながらそう呟いて、用件だけのごく短いメールを書き、送信ボタンを押す。たいして時間を空けずに「了解」と二文字だけの返信が届くはずだ。その、返信するまでの短い時間に、きっとあれこれ文句を吐いているのだろうけれども。
 さて、さっさと仕事をやっつけちゃうかしらね。
 視界の端、オフィスのドアから仏頂面の堂上が去っていくのを見遣りつつ、柴崎は手元の資料をあらためて繰り始めた。


fin.


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