今宵あなたと夢の中 2・・・・・from「ギモンケイの二人」 |
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ぱぁんっ! 「ギャッ!」 その音と、頬を思いっきりはたかれた痛みで目が覚めた。 叫んで、痛みに熱くなった頬を両手でさすると、目の前に堂上教官がいた。 「あ……れ、堂上教官?」 「あれ、じゃない! この酔っ払いが!」 これ以上ない程に眉間に皺を寄せた堂上教官が、あたしの横に座っていた。ええーと、ここはどこだ? 公園かなんかみたいだけど。 あ……あー、あたしったら、こうして座らされてるのだけはわかってて、それであんな夢みてたのか? 妄想しすぎだろ自分! 並んで座ってるってだけで、どこまで夢見られるんだ! 思い出すだに恥ずかしいことばかり夢見ていたものだ、と、頭を抱えてしまう。いーやー! 恥ずかしいー! 「目が覚めたんなら帰るぞ。もう一人で歩けるな?」 堂上教官がベンチから立ち上がるけど、あたしはいまだにここがどこで、そもそもなんでこんなとこにいるのかも思い出せなくて、あれー、あれー、なんてぶつぶつ言ってたら、今度こそゲンコツが降ってきた。しかもかなり特大のが。 「あいたっ!」 ゴツンて! 今ゴツンて言ったよ!? どんだけ本気のゲンコツなのよ! それにさっきだって、寝てる女子起こすのに両頬バチンてはたくってどうなの!? もっと優しく起こす方法がいろいろあるでしょ! 「はたいたり殴ったり、教官、横暴です!」 「酔い潰れたお前をここまで引きずってきた俺に感謝しこそすれ文句を言うとはいい度胸だ! 俺はもう帰るぞ。これ以上酔っ払いに付き合ってられるか!」 そうか! 思い出した! 教官の怒鳴り声に、あたしは慌てて立ち上がった。 えーと、今日は、昇任試験お疲れ様&合格祝い&堂上教官小牧教官ありがとう、の飲み会で、堂上班と柴崎の五人で居酒屋に行って、乾杯でビール飲んで、サワー飲みながらおつまみ食べて、ちゃんと食べないと酔っぱらうからと思ってそれなりに食べながら飲んだつもりだったけど……サワーの二杯目を手にしたあたりから、もう、記憶がない。 あー、またやっちゃったんだ……今日こそは大丈夫と思ったのに。 すみませんでした! そう言おうとしたけど、まだ酔いが抜けてないのか、足に力が入らない。うわ、よれるー! ……と思ったら、堂上教官に肩をがしっとつかまれて、なんとか倒れずに済んだ。 「……す、すみません、ありがとうございます」 「気をつけろ、アホウ」 あーもー、すみませんの意味が変わっちゃったよ。まず謝りたいのはそこじゃなかったのに。 肩を支えてくれていた堂上教官の手が離れ、歩きだそうと背を向ける。それに、ちょっとだけさみしいな、と思って、いやいやそんなこと言える立場じゃないし! と軽く頭を振ってからその後を追おうとした、けど。 あ……これは、だめ、かも。 バカだあたし、まだ酔いが抜けてないってのに、さらに頭なんか振るからだ。くらくらする。今足を踏み出したら、確実にこける。 こんなこと頼める立場じゃないけど、でも、ここで倒れるよりは、たぶん、ましなはず。 背に腹は換えられない、よね? 思い切って教官の背中に呼びかける。 「あ、あのっ!」 あたしの声に、堂上教官はものすごく訝しげな顔で振り向いた。思わずひるんでしまう。 「あ、あの」 「なんだ、用なら早く言え」 うわあ、めちゃめちゃ機嫌悪そう。仕方ないけど! でも、すみません、被害拡大を防ぐためだと思って見逃して! 「あの……まだ、ちょっとふらつくみたいなんで……ちょっとだけ、つかまって歩いてもいいですか」 言った瞬間、堂上教官の目が驚いたように丸くなった。そ、そりゃそうだよね! こんな大女が「つかまっていいですか」とか柄じゃないし! かわいいどころか笑えるわ! それに、ここまでさんざん迷惑かけといてまだ上乗せか! って呆れられても当然だ。 「あのやっぱりいいですごめんなさい!」 あたしは慌てて言った。照れ隠しにあはははー、と笑って、手をぶんぶん振った。……振りすぎた。ああ、どんだけバカだあたし。自分の手に振り回されて倒れるなんて。 視界が斜めに傾く。 その傾く世界の中で、堂上教官があたしに手を伸ばすのが見えた。そう、いつだって、あたしが困った時には必ず伸ばしてくれるその手。 つかまえて。 ふわふわ飛んで行っちゃうあたしを夢の中でつかまえてくれたみたいに。 思わず伸ばした指先を、堂上教官の手がつかんでくれた。そのまま、力任せにぐいっと引っ張られて……あたしは、堂上教官の体に思いっきり突っ込んでいた。 すみません! そう言って自分で立とうとした瞬間。 ぎゅっと、抱きしめられた。……ような気がする。 だって、男の人に抱きしめられたことなんてないから、わかんないんだもの。あたしが思いきり倒れこんじゃったから、堂上教官だって自分の体を支えるために力を入れなくちゃいけなかっただろうし、それで腕にも力が入っただけかもしれないし。っていうか、きっとそうだ。堂上教官があたしを抱きしめる……とか、ありえないでしょ。 その証拠に、抱きしめられている、と感じたのはほんのわずかな時間だった。堂上教官の腕の力が緩む。自分で立て、と言うように。 なのに、気づいたらあたしの手は、教官の上着の裾を掴んでいた。 行っちゃいやだ、なんて、言える立場ではないのに。 行ってほしくなくて。 置いていかれたくなくて。 そばに、いてほしくて。 ああ、あたし、本当にまだ酔っぱらってる。これは夢じゃないのに。こんなこと、本物の教官にしちゃうなんて。きっと呆れられちゃう。嫌われちゃう。どうしよう。 それでもその手を離せないまま、頭の中だけがぐるぐるしていたら、その頭に、ぽん、と手が乗せられた。そしていつものように、ぽんぽん、と叩かれる。 「……歩けるようになったら言え。それまでおとなしくしてろ」 その声がびっくりするくらい優しくて、頭に乗せられた手が優しくて、教官の腕に包まれた自分が熱くて……なんだか、もう、とろけそうだ。 あたし、また、夢見てるんじゃないだろうか。 「すみません、ありがとうございます」 それだけ言えたのは奇跡だと思う。だって、もう、夢かうつつか半分わからなくなってる。 でも……夢でも、現実でも、堂上教官といっしょだなんて、なんてぜいたくなんだろうね? 「おいっ!? 笠原!!」 あー、教官が呼んでる。はい、笠原、ここにいます。 教官のそばにいます。 ずっとずっと、ここにいたいです。 そばにいても、いいですか? ふわふわ、ふわふわ。 あたしはまた、雲の上でふわふわしてる。 あのね、あったかいの。ふわふわと、体ごと宙に浮いてる。 でも、大丈夫。 堂上教官が、あたしが飛んで行っちゃわないように、つかまえてくれてるから。 ちゃんと、帰れるよ。あたしのホームに。 あのね、あたしね、 すっごいしあわせ。 |
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fin. |