driving in the night 1・・・・・from「燃えて青春駆け抜けろ!」 |
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秋の日は釣瓶落とし、とはよく言うが、だからと言って当然のことながら秋になると地球の自転が早まる、なんて訳ではない以上、秋だろうが夏だろうが日の沈む速度が変わるはずもない。それはあくまでその現象を観察する人間の主観の問題であり、だから堂上が今、春と夏のちょうど狭間のこの時期に似たようなことを感じたからといって、そこになんの不思議もない。 図書基地から稲嶺を送り届けてきた小牧・手塚組と交代して車に乗り込み、稲嶺邸を出発したのは十九時を少し回った頃か。ついこないだまでは早い夕暮れの中で桜の花を惜しんでいたはずなのに、最近はこんな時間でも空はかすかに昼の青さを残していた。さすがに夕焼けは西の彼方にわずかに残るのみだが、基地に戻るための道のりをほぼ真東に向かって走る車からはそれを見ることはできない。視界を占めるのは一面の蒼、そして見る間に濃さを増し闇へと変わっていくその速度に、堂上は毎度「釣瓶落とし」という言葉を思い出す。 そのやけに蒼っぽい闇の中、黄色から赤に変わった光が煌々と輝くのを見た堂上は、サイドブレーキを引いたその手をカーステレオに伸ばした。交通情報を聞くために車内では常に流しっぱなしにしてあるラジオのボリュームを落とすためだ。ボリュームダウンのボタンを何度か押し、パーソナリティのにぎやかなしゃべり声が少しだけ遠退いたのを確認してちらりと目線を横に向ければ、助手席に座る郁がゆらゆらと舟を漕いでいた。 今日の昼間はよく晴れた空の下で当麻とともに庭の草むしりに勤しんでいたから疲れているのか──いやいや、常から鍛え上げている図書特殊部隊の一員たる郁が、たかが草むしりでバテるはずもない。つまりは、座っているばかりで何もすることのない助手席で、心地好い気温に心地好い振動、更にはすとんと幕を下ろしたような宵闇に包まれて、不意に睡魔に襲われ、そして抗えなかった、というところだろう。 「このガキが」 小さく小さく呟いて、しかしそれが本心でないことは誰より堂上自身がよく知っている。かと言って、 ──年頃の女が彼氏でもない男と二人きりの車で無防備に寝るなアホウ。 そんな台詞を郁に言うはずもなく、言えるはずもなく。 そもそも基地への帰還途中と言えど、稲嶺や、まして当麻を乗せている訳でもないのだから、ハンドルを握っているのでなければ何もすることなどないのだし、こうしてうとうとしてしまったからと言ってそれを責めるつもりはない。それでも、堂上が何を言わずとも、きっと郁は起きたら勝手に慌てるのだろうが。 ほどなく信号が青に変わった。サイドブレーキを下ろしてギアを切り替え、アクセルを踏む。それと意識せずとも普段より丁寧に踏んだアクセルに応えるように、エンジンは静かに回転数を上げた。 無防備に眠ってしまうのは信頼されているから、と思えば嬉しいが──まあ、やっぱり、ガキなんだよな。堂上は郁が眠っているのをいいことに憚ることなく苦笑した。 しかし、そのガキに惚れた男がここにいる。 そして、彼女がガキだから……あまりに無垢だから、堂上は迂闊には一歩を進めない。 もちろん現状を──なぜ今こうして郁と二人きりで車に乗っているのか、その理由を考えれば、そんな浮ついたことに意識を回している場合ではないのもわかっているのだが、こんな、移動するより他にすることも考えることもない時間をぽんと与えられ、しかも、隣にいるのが彼女だけ、なんて状況では、いろいろ余計なことを考えずにはいられない。 例えば、もしこの車が図書隊の公用車ではなくて。 今日が休日で。 お互い制服を脱いで、あの寒かった日のように少しだけめかしこんで。 そして向かう先が、どこか、仕事に関係ない遠くだったなら。 ……そんなことを自分が考えているなんて、郁はきっと夢にも思わないに違いない。 もしも自分がそんなことを口にしたら、このコドモのような彼女はどんな反応をするのだろうか? それを想像したら少しおかしくなって、堂上は再び、隠す努力など端から放棄した苦笑を浮かべた。 そんなことを考えてしまうのは……それでもまだこうして笑ってしまえるのは、昼間の話が覿面に効いている。 どうやら自分は、自分が思っていた以上に単純らしい。 |
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