driving in th night 4・・・・・from「燃えて青春駆け抜けろ!」 |
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* 「いい加減起きろ、アホウ」 助手席の郁の頬に買ったばかりのよく冷えたペットボトルを押し付けると、郁が「ひゃっ!」と声をあげて目を開けた。 間もなく基地に着く、隣町のコンビニの駐車場。いまだのんきに寝こける郁を車に残してスポーツドリンクのボトルを二本買って戻った堂上は、運転席のドアを開け、シートに身を滑らせる前にペットボトルの一本を取り出して郁に押し付けたのだった。 「あ、あれ……? あれ!? あたし寝てました!?」 最初は自分がどこにいるのかわからないようにぼうっとしていたが、すぐに状況を理解すると郁はシートでぴょこんと飛び上がった。その様子に「いいから持て」とペットボトルをさらにぐいっと押し付けると郁は再び「ひゃっ」と声をあげ、それからやっと押し付けられたペットボトルを受け取った。そこでようやく車に乗り込んだ堂上は残りの一本をドリンクホルダーに挿してシートベルトを締めた。 「顧問の家を出てからあっという間に寝たぞ、お前」 駐車場を出るために車をバックで進めながらそう言うと、郁が「すっすみません!」とペットボトルを握りしめて頭を下げた。そんな郁に堂上は苦笑する。 「別に、あとは帰るだけだし、寝てても構わないんだがな。ただ基地に入る前には起きててもらわんとさすがに恰好がつかん」 それに、部下といえども眠る女を助手席に乗せて基地に戻った日には、誰に何を言われるかしれたものではない──とは言わずにおく。 「いや、あの、移動中だって業務時間ですし! すみません!」 「それ言ったら、茨城県展のときみたいな大移動だって業務時間だから寝ちゃいかんってことになるだろ。顧問や当麻先生を乗せてるときでなければ構わん。気にするな」 とりあえずそれ飲んですっきりしとけ。そう言うと郁は三度目の「すいません」とともに手にしたペットボトルの蓋を空け、一口、二口飲んだ。ついさっきまでコンビニの冷蔵庫でキンキンに冷えていたスポーツドリンクはまだ半分寝ぼけていたであろう彼女の頭をすっきりさせたはずだった。 車を駐車場から幹線道路に戻し、流れに乗せた。基地まではもうあと十分もかからないだろう。 「笠原」 「はい?」 郁が自分のペットボトルに蓋をした頃を見計らって堂上は声をかけた。 「俺のも開けてくれ」 「へ?」 「飲み物。運転してるのに開けられないだろ」 「あ、ああ。そうです、ね?」 そりゃそうだけど、なんであたしが? とでも言いたげな微妙な顔をした郁が、それでもそれ以上は何も言わずにドリンクホルダーに挿された堂上のペットボトルを取り出し、蓋を開ける。 「今飲むんですか?」 「でなきゃなんで今開けるんだ。早く寄越せ」 言いながら、視線は前方から動かさず左手だけを軽く伸ばすと、郁が蓋を外したペットボトルをその手に預けた。堂上は受け取ったスポーツドリンクをハンドル片手に何口か飲むと、「悪いな」と再びボトルを郁に返す。郁の方も「はあ」と言いながら受け取り、持っていた蓋を閉め直してドリンクホルダーに戻した。 「飲むんだったら車動かす前に飲めばよかったじゃないですか」 何が引っかかっていたのかようやく気付いた、という声で郁が問うのに、 「お前がいつまでも寝てるからちょっかい出してたら忘れてた」 としれっと返したら、「なんですかそれ」と郁が軽くふくれてみせたので、堂上は「悔しかったら起きてろ」とだけ返して、あとは黙ってすっかり日の暮れた夜の街を車を走らせた。助手席の郁は何か納得いかない、という顔で窓の外を流れていく灯りを見るともなしに眺めていた。その横顔をちらりと見ながら思う。 例えば、もしこの車が図書隊の公用車ではなくて。 今日が休日で。 お互い制服を脱いで、あの寒かった日のように少しだけめかしこんで。 そして向かう先が、どこか、仕事に関係ない遠くだったなら。 ──などという身も蓋もない妄想どころか、いつかの映画のリベンジだっていつになるかわからない状況だ、これくらいの楽しみは許されるだろ。 基地まであと五分。堂上はささやかな妄想を秘かに決行したことに満足して、郁に気付かれないようにこっそりと一人小さく笑った。 |
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fin.
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