rewards 2

・・・・・from「MRI」

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 稲嶺顧問の自宅から当麻先生の身柄を図書基地に戻し、図書隊が保護していることを公にしてからというもの、今回のような中規模の夜間抗争の頻度が跳ね上がった。
 しかしそれが「なんとしても当麻蔵人の身柄を奪う」という意図のもと行われている訳ではないことは、防戦する図書隊側の誰もが感じていた。
 稲嶺邸から当麻先生を乗せて飛来したヘリへの狙撃の様子がテレビで全国放送され、国民の反発を招いたことも影響しているのかもしれないが、それにしても、当麻先生の確保はともかく、抗争のそもそもの目的であるはずの検閲対象図書の回収ですらも、その最終目標としていないとしか思えないような展開しかしないからだ。
 武蔵野第一図書館という同じ場所で何度も、いや、何十年も抗争を繰り返していれば、お互いに攻めどころ、守りどころは見えている。そこへどう押し込むか、どう巻き返すか、戦闘上の重点地区はほとんど毎度同じだ。そして、その裏をかこうとするのも、そのさらに裏の裏をかこうとするのも、また同じである。  そういった、これまでの抗争で必ず肝となっていたいわゆる「裏」や「裏の裏」といった重要ポイントへの攻略行動が、最近の一連の襲撃ではどう考えても普段より甘かった。
 さすがに全くの無傷と言う訳にはいかないが、いつもだったらもうひと押ししてきそうなところで「今日はもう諦めた」とばかりに退いて行くのだ。迎え撃つこちら側が拍子抜けする程に。
 そんな抗争が何度か続いた結果、上層部も現場も、皆が同じ結論にたどりついた。
 これは、国をバックに圧倒的な予算と物量を誇る良化特務機関だからこその、いわば、兵糧攻めだ。夜間の中規模抗争を数多く繰り返すことでこちらの戦力と戦意をじわじわ削っていこうと言う腹だろう。
 あちらと違って物資も人員も限られる図書隊にとって、中規模とはいえ抗争がこう頻繁に続けば物資の消耗は当然のこと、防衛員の配備……つまり人繰りだ……も徐々に厳しくなっていく。負傷者が出ることによる減員ももちろん大きな問題だが、無傷で戦闘を終えた者にも疲労やストレスが重なっていくのが地味に、しかし確実にきいてくる。十分な休息を取らせることができればよいのだが、ただでさえ非常事態中の現在、常より厚くなっている日中の警備態勢を崩す訳にもいかず、そうこうしているうちに次の襲撃がある、といった具合では、多くの隊員が体調万全を保ち難くなってきていた。日頃の鍛錬の成果もあって今のところガタ崩れにはなっていないが、これから気温の上がる季節を迎え、梅雨に入って蒸し暑さも増してきた日にはさらに状況は厳しくなるだろう。防衛部のみならず特殊部隊でさえも頭の痛い問題だった。
 だが、いくら良化特務機関に図書隊と比べものにならないリソースがあるとはいえ、当然のことながら無尽蔵ではない。だから、この状況のゴールは見えている。
 当麻蔵人が原告となった訴訟の最高裁判決だ。
 ここでもしメディア良化委員会側が勝てば、奴らはその場で当麻蔵人を確保しにかかるだろうが、図書隊が全力で反撃に出ることも当然織り込み済みだろう。今続いている断続的な抗争はその威を削ぐための布石だ。
 いずれにしろ、俺達のやらねばならないことは明確だ。
 ここをなんとしても凌ぎきり、当麻蔵人を守り抜け。
 ……ただ一つ、そして最大の問題は。
 肝心の上告審の判決の行方については神頼みするしかない状況だということだ。

 今夜の襲撃も同じような状況だった。
 攻め込むべきポイントをしっかり衝いてくる攻撃は相変わらずだが、肝心なところで押しが弱いと感じざるを得ない展開。いつものように直前に検閲代執行宣言を放り込んでおきながら、実際は今日もまたこちらの戦力を削ることだけが目的の戦闘だ。
 ──そう、誰もが思っていた。
「やられた!」
 耳にした無線に怒声が響いた。それが最初から相手の目的だったのか、それとも現場部隊の独断なのかはわからない。ただ一つ確かなのは、図書館棟の、いつもなら「裏の裏」的な重要ポイントとして防衛線が敷かれているはずのエリアから侵入を許したということだった。
「了解、堂上班、図書館棟の援護に向かいます」
 本部、そして守備していた塹壕の指揮官とのいくつかの短いやり取りの後、俺のその通信を合図にまず手塚と笠原が塹壕を離れ図書館棟へ移動を開始し、その穴を防衛員が埋めるのを確認してから俺と小牧が続いた。
「油断したな」
 走りながら思わず苦い顔でつぶやくと、
「でも、これ以上の侵入を防げれば、むしろ袋のネズミだ」
 小牧が状況をポジティブに解釈してみせた。それに「それもそうだ」と返して先を行く部下二人の背中を追う。最初のいがみ合いが嘘のようにお互いに信頼し合い、息の合ったバディとなった笠原と手塚はいまや俺たちにとっても信頼のおける部下となっていた。その二人に続いて図書隊の守備が手厚い通用口から館内に飛び込んだ。
 侵入者を追って先に館内に展開していた防衛部の二班が一階東階段付近で応戦中との情報に基づき、館内バックヤードを走り抜け、業務用の裏階段から二階に上がる。
 武蔵野第一図書館は閲覧室を一階にしか設けていない。地下は何十層にもなる巨大な書庫だが、二階以上は集会室やホールなど公民館機能を持つ各種施設だから、よほど特殊な事情がない限り良化特務機関には用のないエリアだ。その二階から回り込むことで、先行した班とともに上下から挟み撃ちにする作戦である。侵入口から東階段付近まで追い込んだことで直接閲覧室へ向かう経路は断ったことになるが、自分たちがこうして二階経由で東階段へ向かっているということは、つまり彼らも同様に二階以上のフロアを経由して閲覧室を目指す可能性もあるということでもある。むしろそちらを防ぐのが主たる目的の配置だ。もちろん館内の要所要所に侵入防止のためのシャッターは下ろしてあるが、敵がどのような手段で突破を図るかわからない以上、できる限り手前で食い止めるに越したことはない。また敵の狙いが万が一にも二階以上にあるとしても、下から追うよりは上から迎え撃つ方が有利だという利点もある。
 だが一歩及ばず、俺達が東階段の見える角まで到達したそのときに侵入者がその階段を昇り切ったところだった。
 上から、という利点を生かすタイミングを逃したのは痛いが、追うよりは迎え撃つ方がいろいろな意味で余裕があるのも事実だ。
 先行した手塚が先頭の侵入者の足を狙い撃ち、笠原が後に続く者への威嚇射撃を行う。これと指示しなくとも適切な行動をとる部下二人の後ろで俺達も銃を構える。
「このまま階段へ押し返す。階段下の班と挟み撃ちだ」
 廊下の角を盾にしつつ、徐々に階段へ近付く。階段下からの追い上げもあり、侵入者たちは階段中程に追い込まれていた。ここまで追い詰めれば彼らに逃げ道はほぼないに等しい。あとは反撃に注意しながら確保するのみだ。
 最初に手塚が狙撃した良化隊員は足を撃たれて階段際に倒れ臥していた。その手元に落ちていた拳銃は先に通り過ぎた笠原が廊下の向こうへ蹴り飛ばした。いくら反撃手段を隔離するためとはいえあまりに雑ではないかと眉を寄せるが、必要な対処だったので不問とすることとする。
倒れた良化隊員は身動きせず、既に意識を失っているようだった。敵とはいえ、回収してくれる味方もない状況で撃たれて出血している者を放置しておく訳にはいかないが、この状況が一段落ついたら応急処置の上救急車に放り込んでやるから、悪いがもうちょっと待ってろ。そう思いながらちらりと見遣った自分の視界が、もう失神していると思っていた彼の目が開いているのを捉えた。なに? まだ意識があったのか。走り過ぎようとした俺が目を瞠ったと同時に、倒れた男がこちらへ手をのばしてきた──


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