叫ぶ、指。 2

・・・・・from「MRI」

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     *

 それは昨晩の抗争でのことだった。
 防衛線を突破し図書館棟に侵入した敵を迎撃するために別班と合同で展開していた堂上班だったが、状況もいよいよ佳境というところで堂上が失神するという事態が発生した。一言で言ってしまえば階段から落ちたのだ。と言っても全身フル装備の上、落ちたのはたかが二階から踊り場までだからそこまで大した衝撃ではなかったはずで、つまりはよほど打ち所が悪かったのか。落ちる、と意識する間もなく堂上の意識はブラックアウトした。
 郁と手塚が入隊してからというもの、堂上が戦闘中に失神するような事態に陥ったのはこれが初めてで──戦闘以外では一度あったけれども──少なからず動揺が走ったが、しかしこの春で入隊四年目を迎えた彼らがそれで動きを鈍らせることはなかった。的確に敵を撃退、確保すると、小牧の指示のもと堂上を救護テントに送り出したのだった。

     *

 ……という状況説明をしなくてはならないか、と堂上は気が重かった。しかし、医官に言われた通りに戦闘終了後のブリーフィングを終えたその足で装備もそのままに向かった医務室で、堂上は何も言っていないどころかスツールに腰かけてさえいない状態でいきなり封筒を押し付けられた。
「これは?」
 何の前置きもなく渡されたそれに、堂上はぽかんとする。そんな様子を気にすることもなく、医官は淡々と言った。
「紹介状。もう書いといたから、これ持って精密検査行ってきなさい。できれば今すぐ電話して予約取って、なるたけ早めにね」
 当然知ってるだろうけど一応これね、と図書隊御用達と化している一番近い総合病院の外来予約電話番号まで丁寧に押し付けられた。
 相変わらず医官のペースで話が進むのに、堂上は無理矢理口をはさむ。
「いや、もうこうして普通に動けていますし、失神していた時間もそう長くなかったですし、特に問題はないと思うんですが。それにこの状況ですし……」
 今年初めの原発テロに端を発したメディア良化法の権限拡大。そのターゲットとなった作家、当麻蔵人を図書隊が保護するようになって間もなく五ヶ月がたとうとしている。そのための警備シフトが防衛部、特殊部隊問わず常より厚くなっている上に、良化委員会側は当麻を直接略取することは諦めた代わりにまるで嫌がらせのように夜間襲撃の頻度をあげてきている。そんな状況で一日といえども予定外に勤務からはずれるのはできれば避けたい状況だった。
 ……という本音をダメ元でぶつけてみるが、案の定あっさり切り返された。
「堂上二正、君、いつぞやも頭打って失神してここに担ぎ込まれてるでしょう。戦闘中でもなかったのに」
 できれば思い出したくない件を指摘されて堂上がうっと息を呑んだ。戦闘中ではない──事務室で、大外刈りで、落とされた。たぶん落ちた堂上だけでない、落とした方も記憶から抹消したい一件のはずだ。
「今回君が失神したときの状況は運んでくれた防衛部から報告を受けてる。前回と違ってそれだけの装備で、しかもたかが階段半分落ちただけで失神したんでしょ? どれだけ下手な打ち方したかわからないんだから、検査しない、はありえないよ」
 医官の言うことはもっともで、だから有無を言わせぬ力があった。もちろん堂上もその言葉を理解するし、納得もしているのだが、それでもやはり、現状を考えるとできれば……そう思うことも捨てきれないのが正直なところだった。
 しかしそんなことを考えていることもやはり医官には筒抜けだったようで、ふう、とため息をつくと、「あのね、堂上くん」と半分呆れたような声で堂上の痛いところを衝いた。
「たとえばね、笠原さんて君の部下だろ。彼女が同じように戦闘中に落っこちて失神して、でも忙しいから病院には行きたくないって言ったら、君、彼女になんて言うの? そのまま放っとくかい?」
 その問いに堂上の頭が回り始め、そして答えは瞬時に出た。
 ──アホか貴様、こんなときだからこそきちんと検査して万全を確認しておけ!
 ──もしも放ったらかしたせいで肝心なときに動けなくなったりしたらどうするんだ!
 言う。これくらいのことは脊髄反射並みの勢いで言う。なぜなら自分自身が確かにそう思っているからだ。
 堂上が刺された表情になったのを見た医官が「それ、そっくり君に送るよ」と言うと、「とりあえず簡単な診察だけさせてね。そこ座って」とそこでようやく医官の前のスツールを指し示した。


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