リズム・フィーバー! 2

・・・・・from「トリビアリズム」

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「『リズムフィーバー』? 懐かしいね、これ、まだシリーズ続いてるんだ」
 子供の手の中のゲーム機を覗き込んで笑うのは小牧だ。
 子供の相手は郁に任せた、とはいえ、その郁が子供以上ににぎやかに声をあげるのがおかしかったのか(それにしたって笑い過ぎだ! と郁は少なからずむくれているのだが)、ようやく収まった上戸の名残の涙を目尻に浮かべた小牧が、打ち合わせコーナーでゲームに勤しむ郁たちのところにやってきて読み上げたそのゲームのタイトルは、郁が確か小学生の頃にシリーズ一作目が発売になった、いわゆる「音ゲー」の名作的作品だ。流れてくる音楽のリズムに合わせてキャラクターを操作し、画面のあちこちに散らばるアイテムを捕まえていくというもので、そういえば郁も子供の頃に友達が持っていたのをやらせてもらったことがあった、と一面で流れるやたら陽気なラテン系のテーマ曲を聞いてやっと思い出した。とはいえ、根っからアウトドア派の郁はさしてハマることもなくやり過ごしてしまったからすっかり忘れていたのだが。
「笠原さんならもっと先まで楽々行けるかと思ってたよ。リズム感よさそうだもの」
 まるでこれから何が起こるのか全て知っているかのような迷いのない手つきでキャラクターを操作していく子供を横目に小牧が笑うのに、郁はため息で返した。重ねて
「それ、昔からよく言われるんですけどねー」
 と言えば小牧の言葉への返答とすれば十分だったろう。笑顔を苦笑に変えた小牧に郁がぼやく。
「まったく、運動が得意な人ってリズム感がいい、って根拠あるんですかねえ?」
「どうかなあ。ただ、陸上もリズム感がある人のが強そうって、俺の勝手なイメージだけどね。そうでもないの?」
 小牧の素朴な疑問に、郁は選手時代を思い出して首を傾げる。
「うーん……ハードルとか、ハイジャンなんかのジャンプ系の種目は、やっぱり踏み切りのタイミングとかあるからリズム感が大事だと思うんですけど。あとは長距離の選手の子が、いかに自分のリズムを意識して、保って、そんでコントロールして走れるかが大事って言ってましたね。でも短距離の場合は……っていうか、あたしは、ですけど、むしろリズムがあるならそれをを崩してでももっと前に、って感じなので、リズム感とか気にしたことないんですよね」
 自分の中のリズムに乗って走るのは確かに一番走りやすいのだろうが、その心地よさを壊さなければ、既にあるリズムを越えたスピードは得られない。自分の中で刻まれるリズムよりももっと早く、もっと前に。たった十数秒というわずかな時間の中でどこまで壊せるかがいつも勝負の分かれ目だった。
「それにしたって笠原さん、三面はねえよー。オレが初めてやったときでも七面は行ったのにさ」
 それまでやっていた面をクリアして一息ついたのか、不意に顔をあげた子供が小生意気な口をきいたので、それにやっぱり同じテンションで郁が噛み付き返した。
「だから曲も知らないのにいきなりやれってのが無理だから! 一面はコレのテーマ曲だから知ってたけど、二面から後、子供番組の主題歌ばっかなんだもん。全然知らないわよ!」
 世に音ゲーも種々あれど、結局のところ流れてくる曲を知らなければ次の展開の予測がつかなくて上手く先に進めないのはどれも同じだ。だから郁の言い分はごくごく真っ当なのだが、
「ええー、『パンプキン大作戦』も『ハヤブサファイブ』も知らないの!? だめじゃん、流行に乗り遅れてるぜ!」
「無茶言うな! ガキ向け番組の歌なんか寮住まいの成人独身女子が知るかってーの!」
 子供と郁の本気の言葉の応酬に再びぶり返した小牧の上戸をBGMに、父親と堂上が揃って「お前らいい加減にしないか!」と怒声をあげたそのときだった。
「哨戒中の警備より入電! 良化特務機関が当館周辺に展開中! 総員至急警戒態勢に着け!」
 館内一斉放送が良化特務機関の襲撃を告げた、その次の瞬間にはほぼ全ての隊員が出動室へと走り出したのだが、郁はすぐには事務室を飛び出さず、その代わり目の前の子供を抱き上げた。
「わっ! 何すんだよ! せっかく新しい面だったのに!」
 周りで何が起きているのか全く把握できていない子供が不平の声をあげる。それに「あんたなら上手だからまたすぐそこまで行けるわよ!」と怒鳴り返してから父親と堂上を振り返った。
「防護室にこの子預けてから集合場所に向かいます!」
 検閲抗争が図書館棟から離れた特殊部隊庁舎にまで戦闘区域が拡大することはまずないが、それでも非戦闘職種の職員たちは図書館棟と同じく設置されている庁舎内の防護室に退避することになっている。この子もそこに預けなくては。
「済まない笠原、頼む!」
 一声だけ返して父親が事務室を走り出ていった。本当ならば我が子を自分で保護したいのだろうが、この非常時にはたまたま子供の一番そばにいた郁が子供を保護する役目を担うのが最良の選択だったし、彼もそれを理解していた。そして、
「笠原の小火器チェックは手塚が代行! 行くぞ!」
 郁が出遅れるリスクを軽減するための指示を短く発した堂上に続いて小牧、手塚も事務室を飛び出していったのに続いて、子供を抱いた郁が堂上たちとは逆方向、防護室に向かってダッシュした。


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