リズム・フィーバー! 3・・・・・from「トリビアリズム」 |
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* 良化特務機関が利用者の多い日中に検閲を仕掛けてくることは珍しい。だから明るく視界がクリアな状況での戦闘も同じく珍しいことで、いつもなら暗闇の中で目を凝らし、あるいは行き交う火線を見上げ、そして耳に挿した無線のイヤホンから流れ込む、本部からの戦況報告や現場指揮官からの指示を頼りに敵味方の位置や状況を伺うことがほとんどなのに、今日ばかりは少し首を伸ばして巡らせるだけで目の届く範囲のみとはいえすぐに状況が見て取れる。 専守防衛を徹底することを旨とする図書隊にとって、視界の利かない夜間の戦闘は余計にリスクが大きい。それを思うとこの日中の明るさは図書隊には大きな味方だった。 だが、そのことがかえって油断を生んだのかもしれない。 『東側通用口の二番バリケードが突破された! 防衛部員に負傷者多数、応援頼む!』 耳に飛び込んだ救援要請に短機関銃を構えたまま郁は咄嗟に堂上を振り返った。堂上は現場指揮官と短くやり取りをした後、 「東側通用口へ、図書館棟東側から堂上班が向かいます」 と簡潔に連絡事項だけを無線に返した。その回答を合図として、今日も狙撃班に加わっている手塚を除く堂上班三人が、自分の抜ける場所をここに残る防衛員が埋めるのを確認してから腰を低くして走り出した。 堂上班が配置されていたのは東側通用口の防衛線に一番近い拠点だったから、救援に駆け付けたのも一番最初だった。そこでは無傷の隊員の援護射撃を得ながら、戦闘力を削ぐために主に足を狙い撃たれた防衛員たちが別の隊員に背負われたり肩を担がれたりして図書館棟へ退避しているところだったが、防衛線を突破して勢いづいた良化の攻撃が一層激しくなっており、退避するにも途中で目隠し代わりに植えてある灌木の影に隠れたり、中には隠れることもままならず地面に伏せて援護射撃を待つ者さえあり、状況は予想していたより厳しかった。このままでは良化に押し込まれてしまうが、しかしまず負傷者の回収が最優先である。堂上班の到着を確認した現場指揮官の号令に従い再開された援護射撃と攻め寄せる良化の銃撃、双方の銃声の中を、地に伏せていたり植え込みに隠れていた負傷者やその補助の隊員がバリケードを転がり込むように乗り越え、図書館棟への退路へ駈け込んで行く。 と、郁の視界の端で、植え込みに隠れていた隊員がやはり退避するために郁たちのいる土嚢を積んだバリケードへ向かって飛び出してきた。その足取りは少し覚束なくて、どうやら彼も足に傷を負っているようだった。しかし自力で走れる程度であるならそのまま走って来てもらうしかない。それを援護するために今自分はここで銃を手にしているのだ、と視線を前方の良化に戻した郁の援護射撃の火線の下をかいくぐるようにダッシュしてきた彼がバリケードの上に身を乗り上げたそのとき。 「ぐあっ!」 今まさに郁の目の前でバリケードを乗り越えようとした隊員の体が不自然に傾ぎ、そのまま郁めがけて落ちてきた。 「ぎゃっ!」 「笠原!?」 バリケードから降ってきた隊員に文字通り押し潰された郁に堂上が駆け寄り、郁の上から隊員を引き剥がす。どうやらバリケードに乗り上げて体の位置が高くなったところを狙い撃たれたらしく、元々負傷していたらしい足とは別に左上腕部から出血していた。いきなり大の男に押し潰された郁は肺を圧迫されて息ができなくなり、やっと息を吸いこめたところで激しくむせたが、それでも自分は無傷だ。喘ぐ息の合間から「あたしは大丈夫です、この人を早く……っ」と声を絞り出したのに堂上が「そこの! 負傷者を後ろへ!」と背後にいた防衛員へ飛ばした指示で応えたとき、 「まだいるんだ!」 堂上が助け起こした隊員が自由の利く右手で堂上の腕を掴み、かすれた声をあげた。 「同じ植え込みに、足をやられて動けなくなってる奴がいる。俺ではもう運べないから、先に駆け込んで回収を頼むつもりで……」 「わかったから喋るな! そっちもこれから回収に行く。お前は早く応急処置を受けて来い」 力強く返した堂上の声に安心したように、彼の体から力が抜ける。どうやら気を失ったようだった。その体を堂上に呼ばれた防衛員が担ぎあげて図書館棟に運んで行く。 その姿を見送る頃には郁の呼吸もだいぶおさまっていた。 「お前は大丈夫か」 そこでやっと郁の状態を確認した堂上に、郁は笑顔で答えた。 「重かっただけで、怪我はないです。……っと、あれ?」 「どうした?」 郁自身に怪我がなかったことを知って小さく安堵の息をついた堂上が、耳に手を当て首を傾げた郁の様子に再び険しい顔になる。その顔を郁は困惑顔で見上げた。 「無線、今の衝撃で壊れちゃったみたいです」 先程押し潰されたときに胸ポケットに入れていた無線機が荷重に負けて破損したようだった。耳に挿したイヤホンはこの無線機につながっているが、本当ならひっきりなしに戦況や指示が飛び込んで来るはずなのに今はうんともすんとも言わない。 無線がないと情報が入らない。刻々と状況が変わる戦場でそれはある意味命取りなのだが、しかし無線機のためだけに、しかもこの厳しい状況を置いて中に下がっていいものか。それに、 「でも、回収に行かなきゃ。あたし行きますね」 植え込みの中で回収を待っている隊員の元に早く行かなくては。郁はへたり込んでいた姿勢からいつでも飛び出せるような中腰に体を起こし、「援護射撃お願いします」と堂上を振り返った。が、 「アホウ、回収は俺が行く! お前はここで援護射撃を続けろ!」 いきなり怒鳴られて郁は目を剥いた。 「だって早く行かなきゃ良化がもうそこまで来てるんですよ!? それに、あの植え込みに行って帰るだけなら無線が使えなくても問題ないです。陣内でリアルタイムで指示を仰げないあたしが行く方が効率的じゃないですか!?」 「お前は上官の命令が聞けないのか!」 「ここで一番足が速いのはあたしです!」 郁の言葉に堂上が一瞬詰まった。確かに郁の言う通り、他の防衛線からの増援が追いついていない今、この防衛線の最終ラインであるここ三番バリケードがいつまでもつかわからない。その前に負傷者の回収を行わないと下手をすれば彼の命に関わりかねない。求められるのは速さだった。 「……よし。お前が行け」 「はい!」 堂上の指示に郁が力強く頷き、バリケードを乗り越えんと身構える。その肩に堂上の手が乗った。 |
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