リズム・フィーバー! 4・・・・・from「トリビアリズム」 |
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「堂上教官?」 振り返った郁の顔を堂上が真っ直ぐ見据えた。 「行きは腰を低くしてとにかく前だけ見て真っ直ぐ走れ。銃声に耳を貸すな。怯んで足が止まればそこで終わりだ」 堂上の言葉に郁は再び黙って頷く。 「ただし、戻りは植え込み沿いに二度インターバルを置いて来い。負傷者を担いだ足で真っ直ぐ走って来られるほど状況は優しくない」 言いながら負傷者の隠れる植え込みの方を示す堂上の指先を郁も目で追う。その指先が示す通り、目的地の植え込みからバリケード方向へ続く植え込みには人が潜り込める隙間が二か所あった。しかしそこからでは後方になる良化の動向を確認することが難しく、再び植え込みを飛び出すタイミングを計るにはどうするか、と郁が考え始めたときだった。 「お前、『リズムフィーバー』のテーマ曲なら覚えてるっつってたな」 はぁ? と郁の顔がこんなときなのにぽかんとする。ああやだ、今あたし相当間抜けな顔してる、とそれこそこんなときなのに思った郁に堂上の言葉が続く。 「ここをスタートした時点でそれを頭の中で歌い出せ。お前の足なら一回歌ったところであそこまで着くだろう」 そう言われて、郁は思わず頭の中でそのテーマ曲……ゲームの中でひたすらリピートされる、そう長くはないがやけに中毒性のあるフレーズ……を歌いだす。確かに自分ならこれ一回であそこまでたどり着けるはずだ。 でも、なんでいきなり『リズムフィーバー』? と首を傾げた郁の頭の中は既にテーマ曲が自動リピート再生中である。 「着いたらもう一回繰り返す間に負傷者を担いで、三回目のスタートと同時に飛び出せ。こっちもそれに合わせて援護射撃を強化する」 「え、でも、それじゃ堂上教官の方でタイミングわからなくないですか」 「俺だってあんだけ有名なゲームならテーマ曲くらい知ってる。こっちも同時に頭ん中で歌ってるから大丈夫だ。無線が使えなくてもこれならいけるだろ」 ちょ、堂上教官が歌うとか。 だからこんなときだって言うのに! と郁は自分で自分に突っ込んでしまうが、それでもつい噴き出しそうになったのを押し隠すために慌てて俯き、そこで堂上の指示を繰り返し確認する。 植え込みを飛び出したその回で次の植え込みに駆け込む。そこで四回目を歌ったら再び飛び出す。五回目の終わりと同時に二か所目に飛び込み、今度はそこで二回繰り返し。そして八回目の繰り返しスタートと同時に最後、バリケードへ向かって走り出す。 つまり、通常の三カウントでは到底足りないタイミング合わせを『リズムフィーバー』の繰り返しで代用するのだ。曲のタイミングに合わせて郁が走り、またそれに合わせて堂上が援護射撃を指示する。 よし、オッケー。 「……行きます!」 既に何発もの銃弾を受けてあちこちはじけた土嚢に手をかけスタンバイする。「笠原士長が回収に出る! 援護射撃用意!」と叫んだ堂上の「一、二、三!」の掛け声とともにリペリングの際の柵越えよろしくバリケードを飛び越え、郁は堂上に言われた通り腰を出来る限り低くして目指す植え込みへダッシュする。その頭上を良化のものとも味方のものともしれない銃声が激しく飛び交うが、 ──聞くな! あたしはただ歌ってればいい! 頭の中でこの場にはとてもそぐわないやけに陽気なゲームのテーマ曲を歌ってただひたすら走る。そして一回目を歌い終わる前にゴールにたどり着き、転がり込んで身を伏せた。 そこには足を撃たれて動けなくなっていた隊員が同様に伏せており、郁はその下に自分の腕を肩を潜り込ませて担ぎあげ、走り出すための姿勢を整えた。一呼吸おいたところでちょうど二回目の繰り返しが終わる。 「行きますよ!」 背中に一声かけて、頭の中の三回目のフレーズのスタートと同時に植え込みから飛び出した。 それと同時に一度はやんでいた援護射撃が再開される。先ほどより密度が上がったように感じられるその銃声を耳から追い出しながら頭の中で歌い続ける郁はその繰り返しが終わる前に予定通り次の植え込みに駆け込んだ。 ……うわ……思ってたよりきっつい…… ぜえぜえと上がる息の合間に郁は思う。 大の男を背負って走る訓練なら今までも何度もこなしてきたし、だから今も自分が行きますと自信を持って言い出したのだが、負傷して完全に脱力している人間を背負って、しかも腰を低くして走るのはまた全然違う、いや、遥かに辛いのだと郁は初めて知った。 回収後、バリケードへ真っ直ぐ戻るのではなく二度のインターバルを入れろ、しかも二度目のインターバルは曲を二度繰り返せ、という堂上の指示は、もしかしたらこのためだったのかもしれない。 ──くそ、悔しい。 気遣われたことが。気遣われなくてはならない自分の弱さが。 それでも堂上が郁の足の速さを見込んで、信じて、この場を託してくれたのだということはわかるから。 ──もいっちょ行くぞ! 陽気なフレーズの四回目の繰り返しが終わったところで、郁は再び負傷者を背負って植え込みから飛び出した。 |
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